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Hideyasu Matsuura

事業再生と電卓コンサル

 COVID19が猛威を振るったコロナ禍以前から「ゾンビ企業」なる会社が世の中にたくさんあると言われていた。  コロナ禍においては持続化給付金、ゼロゼロ融資など政府からの手厚い施策によって、それらのゾンビ企業も生きながらえてきたが、ゼロゼロ融資の返済期限を迎え、いよいよ手詰まりになる会社が増え、2023年上半期(4~9月)の倒産件数は調査会社・帝国データバンクの調べで4208件に上り、前年同期(3123件)に比べ34.7%増加。増加率は2000年以降で最も高くなったという。業種別ではサービス業、小売業、建設業、そして運輸・通信業の件数が多かった。  数年前からお誘いを受けて事業再生に従事される方の団体で勉強する機会をいただいているが、個々のところ倒産の急増に向けた対応であわただしくなっている。  中でも、事業再生のスペシャリストとして名高いのが網師本大地さんで、自ら建設業の会社を畳んだ経験を糧に、「社長の家庭教師」として現場目線で日夜、事業立て直しの支援に励まれている。  現場目線と言っても、会社に出向くといったレベルではなく、マイヘルメット、マイ作業着持参で、時には労働者となって現場で働きながら事業の問題点を突き止め、改善に結び付けてゆくというのだから、頭が上がらない。

 最近ターンアラウンドマネージメント協会が網師本さんの動画をアップしたということなので、運送業を中心に興味をお持ちの方がいらっしゃれば是非ご覧いただければ幸いである。SNSの投稿もよく拝見しているが、「電卓コンサル」の存在にも厳しく注文を付けておられる。


 「電卓コンサル」というのは、事業計画を作ることに長けているが、その計画を遂行することにコミットしないようなコンサルタント、言い換えれば書類づくりだけうまくて、計画を実行させる能力に乏しい、あるいは計画自体が実現性に乏しく、絵に描いた餅というようなコンサルタントのことである。


 私の場合は事業再生のマネジメントをしたことはないのだが、真似のできない職能であり、知識も経験もないので同じことをするのは無理である。おそらく再生コンサルと名乗って現場に行っても電卓コンサルになれるかどうかというところである。  とはいえ、評価人の世界でも「現物を確認しない」評価人が多いと嘆く声を最近よく聞く。評価の世界はコスト・マーケット・インカムの3つのアプローチにより価値についての結論に導く作業である。3つのアプローチはどれも同じ程度の重要性を持つものであるが、評価する対象物、その使われ方、評価目的等によって、特定のアプローチと相性が良かったり、あるいは適用すら難しい場合もあるため、よりよい結論に導くために様々な情報を収集するのが我々の仕事である。  理論的にはどのアプローチも重要であるが、あえて誤解を承知で言えば、近年世間受けがよくなっているのがインカムアプローチである。インカムアプローチでも特にDisconuted Cash Flow法(DCF法)の存在感が高まってきた。  DCF法は評価の対象物が将来の一定の期間に毎期生み出すと考えられるキャッシュフロー(すなわち利益)を現在価値に割り戻した額の合計額と、期間終了後対象物を転売して得られる額の合計額を、対象資産の価値とする価値の求め方である。  実際の投資を考えると、例えば、不動産を購入して20年間家賃収入を得て、20年経ったらその不動産を売却するシナリオを考えればいいだろう。  

 そのDCF法も適用の仕方をまちがえると「電卓コンサル」と同じことになってしまうのである。キャッシュフローを計算する際にはキャッシュフロー表をつけて毎期の収入や支出をシミュレーションするのであるが、現実的ではない想定をしたり、想定が難しいので端からシナリオ作りをあきらめて、割引率でリスクは考慮しているの一言で逃げてしまうようなこともできてしまうのである。  キャッシュフローのシミュレーションにしても現物の状況をしっかり見たうえでやらなくてはならない。不動産や設備にしても、設計がよくない、施工が荒いようなものは補修費がかさむ傾向にあるから、資料だけ集めて、現物を見ずにシミュレーションするようでは拙いのである。もっとも書けば簡単なことであるのだが、実際には非常に難しいことである。金融工学の世界では、数式化して多数の演算を行い、最も確率の高い数字を探ってゆくモンテカルロシミュレーションの手法も取られるが、それとて現物無視では成り立つものではない。  ”コスパ”(コストパフォーマンス=費用対効果)、”タイパ”(タイムパフォーマンス=時間対効果)が持て囃されて、見てくれが良くて安ければそれでよく、サプライヤーのネームバリューが報酬の決め手だったりするのが現状である。かくして、現場、現物にこだわる人間は長い労働時間を安いフィーで使われるようになり、電卓は無理としてもエクセルで作った見栄えのいいチャートに有名企業のロゴでも添えれば何十倍も高いフィーが得られるという二極化が起こる。それが社会が求めているものであり、我々の仕事に対する評価だと思ってそれに対応していかなくてはならないのかもしれないが。一方、現場・現物を見ているといっても、もっと見る目を養わなくてはならないし、「今日は食品製造、明日はメッキのライン」といったように、あれもこれもやっていたのではなかなか見る目は養えないから専門を絞らなくてはならない。そうした課題も抱えていることは事実である。  素晴らしい仕事をされている方の背中を見ながら、2024年もいっそう研鑽に励まねばならないと思ったところである。

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