太陽光発電施設は固定価格買取制度(FIT)の導入以来、有望な投資先として既存の電力会社はもとより各方面からの参入が相次いだ。
言うまでもなく、事業を行う上では誰に商品を売るか、それをいくらで買ってもらうかは最も重要なことである。電力会社が一定の期間しかも一定の価格で電力を買い上げてくれるのであれば、あとはパワーコンディショナーの容量上限に出来るだけ近い水準まで発電量を増やせば良いのである。
自然相手でばらつきはあるものの、日照の量はある程度予測は可能であるから、収支見通しが立てやすく、事業としてはまさにお誂え向きの条件になる。
そうなると、事業価値を測定する上で最も相性が良く説得力が高いがコストアプローチである。
年間の収入、経費などの予測は容易で、かつ収入が確実に得られるのであるから、FITを活用した太陽光発電事業はDCF法の適用には最も馴染みやすい事業であると言える。
一方で、FITのデメリットとして、買取額を保証した分の賦課金を電力ユーザーが負担しなければならず、この分が再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ発電賦課金)として電力ユーザーが負担することになる。東京電力の場合で2022年5月分から2023年4月分まで3.45円/kWhとなっている。再エネ発電賦課金は太陽光発電の発電量が増えれば増えるほど重くなっていくことから、近年はFITの買取価格も順次引き下げられている。
買取価格の単価は10kW以上の産業用の場合、2012年度が40円+税だったのに対し、2022年度は10kW以上50kW未満が11円、50kw以上が10円で、入札制度の要件にあてはまるものは入札となっており、落札価格は10円を切る水準にまで低下してきている。これは太陽光パネルの価格低下により設備投資額も低廉になってきていることが考慮されているが、投資対象としての魅力はやや薄れ、同時に投資以外の実需目的での導入がしやすくなったということでもある。
ここ数年間で、ESG投資が好まれるようになり、単に投資で収益を上げることだけが目的でなく温室効果ガス排出抑制を睨んだ投資も行われるようになってきている。また、行政も補助金・助成金を用意して再生可能エネルギー施設への投資も促進している。こうした補助金を活用して自社の生産活動で使う電力の一部を自社で賄う動きも加速している。
今まで、太陽光発電を直接的な収益事業として投資が行われることが多かったため、太陽光発電=インカムアプローチという図式がどこか当たり前のようになっていた。しかし、自家使用を目的とした発電施設は必ずしもこの図式があてはまらないと考えられる。
自社の生産活動向け施設の補助金の場合、FITの適用を受ける売電事業の用に供することが出来ないという条件が付される。つまり補助金をもらい、かつ再エネ発電賦課金を原資とする買取制度を利用することは補助の二重取りで罷り成らないということであろう。仮にFITの適用を受ける売電事業のように供したいのであれば、補助金の返還義務が生じる旨、補助事業の要件に明記されており、現実的に設置してから数年後に売電事業に転用してFITの適用を受けるというのはFITの制度設計からしてもあり得ないと考えられる。
そうなると、収支見通しは一気に困難になる。収入を算定するためには自社の施設で賄えるため電力会社から購入しなくて済んだ分の電力を収入とみなすことが現実的だろうが、電力料金は変動しており、仮に現在のような高値が続けばみなし収入が増えることになるが、安値で推移すれば収入は減り、場合によっては差損が生じる可能性も考え得る。これを買取期間である最長20年を予測しなければならないのであるから、予測の不確実性はFITの適用を受けられる場合に比べて格段に高くなるし、そもそも外部からの収入が得られない状況でインカムアプローチを適用することの妥当性も問題になるであろう。根拠となる資料を集めて算出すれば求めることは可能だろうが、直接的な収益事業をして資本投下された施設の評価の場合に比べれば、説得力は低くなることは間違いない。
同じことは不動産の場合でも自己の居住用にするか賃貸用にするかでインカムアプローチ(収益還元法)の有効性は変わってくるので、新しい視点とは言えないが、太陽光発電=電力事業という固定観念にとらわれすぎるととんだミステイクになるかもしれない。
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