先日、米国鑑定士協会(ASA)でバーチャルセミナーME182 - Utilizing Excel To Build Market Based Depreciation Curves が開催されました。 具体的に言うとEXCELのグラフ機能で散布図を作り、近似曲線を追加し、近似曲線の数式を追加するだけの作業で、データが揃ってさえいればわずかな時間で出来てしまう作業です。 少し難しいのは近似曲線の数式から実数を求める作業ですが、e を底とする数値になった場合でもEXP関数を使えば比較的簡単に実数を求めることも可能です。
とはいえ、この方法は実際の評価に使うとなるとなかなかハードルが高い部分もあることは確かです。
データをどこで取ってくるか
取引データは多数あれば得られる減価曲線の精度も向上すると考えられますが、問題は、多数のデータをどこから取ってくることです。
取引データは実際の売買データ(成約価格)だけでなく、ASAの評価原論(POV)などでは市場での売出価格を使うことも可能とされています。自動車(乗用車、トラック、トレーラー、バス)や建設機械、フォークリフトなど動くものは比較的価格がオープンになっていてデータが取りやすいですが、それ以外の機械は売出価格も秘匿になっていることが多く、情報収集に課題があります。
成約価格か売出価格か
上記でも少し触れたように実際に売買された成約価格か、あるいは売出価格でも良いのかという問題もあります。情報入手の可能性としては売出価格よりも成約価格の方が格段に低く、成約価格のみにこだわれば、多数のデータ収集は至難の業と言わざるを得ません。
説明性の問題
近似曲線はEXCELの機能で簡単に求められますが、導出の過程の説明性が非常に難しいという問題があります。近似曲線にもいくつか種類が存在し、多項式であれば次数をいくつにするかと言う問題があります。多項式もむやみに次数を増やしていくと波打つような形状の曲線になってしまいます。一般に償却資産の価値は経過年数が増えたり使用時間が増えることで減少していくことが通常ですから、よほどの理由がない限り波打つような線形の近似式を導入することは誤りと考えられます。
相関係数の捉え方
EXCELの近似曲線導出機能では、数式と共にR-2乗値を求めることも出来ます。 R-2乗値は相関係数とも呼ばれていてこの数値が1.0に近いほど分析する二つの要因の相関関係が高いと考えられています。以前、あるセミナーの演習の際にはR-2乗値が0.8や0.9であれば相関関係が高い(=説得力が高い)といった扱いをされていましたが、ME182ではそれらの説明はなく、受講後にR-2乗値を独自に求めたところ0.44でした。 一概に閾値を設定するのは不可能ですが、どの程度まで信頼性があるものと考えるべきか、難しい判断が求められます。
マーケットアプローチはなるべく広く適用したいですから、情報が限られる中でも、なるべく広範に収集し、分析する必要があります。 これが出来るようになれば、特に機械設備の仕事のやり方が大幅に変わっていくと考えられます。
なお、不動産の鑑定評価については不動産鑑定評価基準で評価の方法が定められており、この方法から外れる上記の分析方法は少なくとも鑑定評価書作成においては用いられる余地がないのが現状であると考えられます。
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