top of page
  • 執筆者の写真Frontier Valuation

コストアプローチと減価償却

 減損などの時価会計絡みの評価を担当することがある。企業会計の評価の場合は監査法人のレビューが入り、評価の妥当性を検証される。 条件設定などが適切に行われ、適正な評価になっているかどうか、計算ミスなどがないかといった観点からのレビューと見受けられる。そして、評価書の内容について質疑を受けるのが通常である。  レビューと質疑を行うのは公認会計士の方であるが、ご質問をいただく中で多いのが、コストアプローチで物理的劣化について、経過年数/耐用年数法を適用すると、「減価償却」と見て質問をいただくケースである。  こうした場合、減価償却と評価上の減価の違いから説明しなければならないので、回答文が長くなってしまい、回答を作成する方としても恐縮である。とはいえ、見かけ上は両者は非常に似通っており、しかも、評価の専門家以外は一般的に広く浸透している減価償却の方が圧倒的にメジャーであるから、こうしたご質問をいただくのは仕方ないことだと思っている。    減価償却とは、企業会計における購入費用の認識と計算の方法。長期間にわたって使用される固定資産の取得に要した支出を、その資産が使用できる期間にわたって費用配分する手続きである。  減価償却は、税法会計(税金を計算するための会計)、企業会計(利害関係者に対し企業活動の状況を報告するための会計)で行われる会計手続である。減価償却で重要なことは恣意的な利益操作を排除することであり、耐用年数や残存価額は税法などで決められた年数を用い、「定率法」「定額法」等の償却の方法も毎期一定の方法で規則的に実施するものである。減価償却は固定資産が一定の仮定のもと耐用年数に渡って減価していくという仮定の下に成立しているものといえる。


 コストアプローチは、機械設備機器の現在の再調達価格を求め、減価修正を行って公正価値を求める方法である。  減価には物理的劣化に伴うもの、機能的退化、経済的退化に基づくものがある。  物理的劣化とは、使用による摩耗損耗、外部の環境に晒されることによる価値の損失のことをを言う。物理的劣化は修復可能なもの、修復困難なものがある。修復が可能な物理的な損傷であれば修復の費用を計上すれば良いが、経年劣化については定量化が難しく減価償却と類似性の高い経過年数/耐用年数分析によって求めることとなる。  

 減価償却の場合、取得価額を対象資産の利用可能期間の毎期に費用配分するものであるから、取得原価が減価の出発点となるが、コストアプローチは事情に精通した需要者は代替資産を製造するコスト以上の金額は支払わないという前提に論拠をおくものであるため、比較の対象は評価対象の資産と最も同等に近い効用を持つ同様の新規資産の現在コストということになる。  耐用年数についても、減価償却は前述のように恣意性の排除、公平性や比較可能性比較の確保といった観点から公定の年数が使われるが、公正価値評価においては評価人が対象資産や実際の使用環境等をふまえて適切に判断している。当然ながら、評価人の独断というわけにもいかないので、ある程度根拠となるような実態に即したデータを収集し、参考にしながら決定している。さらに大きく違う点は、残存年数の扱いである。減価償却は実年数であるが、公正価値評価においては補修やリビルドがあれば、その分を残存年数に加算して算出する。良く、「オーバーホールをしたから耐用年数が延びた」というような言い方をされることがあるが、伸びているのは耐用年数ではなく残存年数と考えるのである。ちなみにASAの評価理論の基礎教育(POV)では、補修やリビルド等を理由に耐用年数に手を加えることは恣意的な操作が可能になるとして、やってはいけないことと教えられている。  大きくまとめれば、減価償却は適正な期間損益計算のための費用配分の手続であり、コストアプローチは時価を求めるための計算手法の一つである。

 減価償却は誰がやっても同じになるような厳格なルールのもとに機械的に行われるが、コストアプローチは評価人の専門家としての見解に導くためのプロセスであり、時価を求めるものであるから、実態に即したフレキシブルなものでなければならないのである。    

閲覧数:25回

最新記事

すべて表示
bottom of page