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太陽光発電施設と地域の共生という課題

  • 執筆者の写真: Frontier Valuation
    Frontier Valuation
  • 9月16日
  • 読了時間: 4分

 釧路市の釧路湿原で太陽光発電施設の建設に批判が上がり、建設を進めていた業者に対し北海道が森林法違反を理由に事業中止を勧告する事態となっているほか、全国各地でも紛争事例が多くなっていて、太陽光発電に対する逆風は強まっている。  かねてから野立の太陽光発電施設に対しては批判の声が多く、そのたびに規制の強化や運用の見直しが行われてきた。既に野立の太陽光発電の適地は少ないと言われていて、新規の立地は森林伐採を伴うなど、環境にやさしくないイメージを伴うような開発にならざるを得ないような状況である。一方で、グリーン電力の調達義務など環境規制は年々強くなってきており、再生可能エネルギーに対する需要は旺盛で、供給に対する圧力も高まっている。  近年では太陽光発電施設の立地に対し、資源エネルギー庁などの監督官庁では地域との共生を求めるようになってきている。  実際に野立の発電所に行って評価のための調査を行っていると近隣住民から声をかけられることが多い。評価人は所有者や管理者ではないので、直接対応することは出来ないし、評価の立場で対象物を改変するのは倫理的な問題もあってできないが、地元の人は第三者として評価していることなど知る由もないから、あれこれ要望をぶつけてこられる。

 共通して言えることは「どこの誰なのか分からない人が発電所を立ててしまい、連絡先にクレームを入れても対処してくれない」と”顔の見えない関係”に困惑している様子であるということだ。  近年は新規立地あるいは権利の変動に対しても周辺住民に対し説明会を行うことを国が発電事業者に課している。当初は権利変動に対しても求めるのは厳しいのではないかと思ったが、”顔の見えない関係”に疲弊する地域の人の話を伺うと、むしろ求められてしかるべきではないかと思うようになった。  地域共生の方策としては、前述のような地元説明会の実施、発電所に発電事業者の名称や連絡先など一定の事項を記載して、発電所に掲示すること、災害時に利用できるコンセントの設置などがある。基本的に発電所は感電の危険が伴う施設なので、人が立ち入ることができないよう、発電所周囲はフェンスで覆う必要があり、出入りのための門扉には施錠もしなくてはならない。これも感電リスクから地域の人を守るという広い意味では地域共生であろう。当初はこれすら満足にできていない発電所も多かったが、運用の厳格化で、周囲に柵がない発電所はだいぶ減ってきた。

 しかしながら、これらの方策がどの程度有効なのかは疑問に残る。地元説明会をしても一応は行っているものの、「当初約束したとおりに草刈りをしてくれない。」「防草シートを設置すると言っていたのに全く設置されていない」といった苦情が実際にあり、連絡しても取り合ってくれない事業者もあるという。  災害時用のコンセントも確かに設置されてはいるが、太陽光で発電した直流の電気を電力線に送る交流の電気に変換するPCSに併設されることが多い。こうした設備は一般の人が容易に触れるところにあると危険だから、手の届かない場所に置かれるが、施錠された柵の中にあるから、地元の人が鍵の開け方を知らなければ非常用電源として使うことはできない。 鍵が誰でも開けられるようにすれば、感電事故や電線盗難のリスクも高まるから、慎重な運用が必要なものである。  理想論を言えば、地元の人がお金を出し合う、あるいは自治体が公設で地域の電気を賄うために設置するなどのスキームが作れれば良いし、国もそうしたポンチ絵を描いているのであるが、地元の人もお金の出し方、集め方には詳しくないし、中には「自宅に太陽光発電設備を設置したが、固定価格買取り期間も終わり、買取額もわずか。そのうえPCSも老朽化してお荷物になっているのに、さらに太陽光に投資なんてとんでもない」という人もいる。  こうした事情も手伝って、現実は大都市あるいは海外のファンドが資金を出して建設するケースが大半であり、地元の人にとっては”顔が見えない””他所様の”発電所となってしまっている。

太陽光発電施設の地域との共生は現在進行形の埋めがたい課題である
太陽光発電施設の地域との共生は現在進行形の埋めがたい課題である

 太陽光発電施設自体、架台も金属剝き出しで無機質であるし、堅く門扉を閉ざした発電施設にオープンでフレンドリーな印象を持てと言われても無理であろう。再生可能エネルギーの拡大は都会の人にとっては環境にいいことかもしれないが、地元にとっては厄介者に見えることもあり、太陽光発電施設の地域との共生は現在進行形の埋めがたい課題であると日々痛感しているところである。

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