豹変する日銀企業物価指数?

新規再調達コストは評価対象の資産と最も同等に近い効用を持つ同様の新規資産の現在コストで、新規再生産コストから超過資本コストを控除したコストとされています。日本では「再調達原価」と言った方が馴染みがありますが、これと同義です。

なお、「新規再生産コスト」は評価対象の資産と同じまたは極めて類似した材料を用いて資産の新規模造品を再構築する場合の現在時点でのコストをいいます。


新規再調達コストの求め方にはいくつかありますが、その中の一つに取得価額のデータを信頼出来る物価指数のデータを用いて現在価値に割り戻す方法があります。大量一括の評価を行う場合には良く用いられますが、POV(評価原論)の講義では「最後の手段」であると教えられます。簡便で分かりやすいものの精度に限界があるからだと考えられます。

取得価額を物価指数で現在コストに換算すると理論上は新規再生産コストになりますから、超過資本コストの有無を検討し、超過資本コストが存在すれば控除する必要があります。


とはいえ、大量一括さらに納期が短い評価のニーズが多い現状ではこの方法を選択せざるを得ないことが多いのが事実です。


機械設備評価で主に使われるのが日本銀行の企業物価指数です。

日本銀行のWebサイトでは必要なデータを抽出出来る機能もあります。海外でも物価統計は各国で発表していて、今まで6カ国ほどのサイトを実際に使用したことがありますが、ほとんどがWeb上で検索可能になっています。


日本銀行の物価指数は、概ね翌月の中旬頃発表されます。

但し、いちばん最初に発表される数値は速報値であるため、後日修正される可能性があります。


このコラムで工作機械の受注統計について毎月ウオッチしていますが、こちらも同じように毎月10日頃に前月分の速報値が発表になり、月末か翌月頭頃に確報値が発表されています。工作機械の統計の場合は速報値と確報値の差は僅かな違いに留まることが多く、速報値はかなり精度の高い数値といってもいいのではないかと考えています。


一方、日本銀行の物価統計については、速報値から確報値までに大きく変動することもあります。

特に昨年度末はロシアのウクライナ侵攻や各国の経済制裁の影響で世界的な物価高騰が起こりました。評価依頼の契約上、月末を評価時点にしてその直後の翌月頭に評価書を提出する場合、評価時点の物価指数の発表を待つことができないため、その前月の指数から変動がないものとみなして評価をすることもあります。しかしながら、経済環境が激変する時期にこの対応をすることは適切ではないため、評価時点の物価指数の発表を待つことにしました。

速報値とはいえある程度確かな数字が得られる可能性が高いからです。


結果的には予想通り、一部に大きな変動がありました。

上昇するものばかりと予想していましたが、一部では下落もありました。変動幅も10%を超えるものがあり、待つ判断をして正解だったと思うような結果でした。

また、前月に遡って大幅な修正が入っている項目もありました。速報値と確報値の違いで、場合によっては数ヶ月程度は変動することもあると言う人もいます。


このように後になって変動する可能性があるデータについては、データを取得した日時を控えておくと共に取得したデータも保存しておく必要があります。なぜなら、後になって検証しようとした場合、データソースを当たってみても過去に発表されていた数字を得られないケースがほとんどだからです。「日本銀行時系列データ検索サイト」でも、例えば2022年2月の物価指数を調べることができるのですが、その数字は当初その数字が発表された2022年3月10日と同一の値なのかを確認する術はないからです。実際に評価書提出後に日銀の物価指数を調査されて、評価書の数値と違うと問い合わせを戴いたことがあります。そうした場合でも手持ちの資料があれば誤りがあったか確認することができます。

勿論、後日数値が修正された場合、それに合わせて評価を修正する選択肢もあるかもしれませんが、そのような対応を取った場合、遡及的に数字を変えることによって混乱が生じることもあり得ます。ですので、評価時点で得られる最新・最善の資料を用いて判断したのであれば、後になって評価人が修正を行う義務を負わないのが通常です。


これを読まれた方は、評価ってそんなにいい加減なデータを使っているのか?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかしながら、迅速性が求められる中では、確実なデータが出てくるまでいつまでも待っているわけにはいかず、待っていれば時価として鮮度が落ちてしまいます。

ですから、多少のブレがあるとしても、ある程度信頼性が確保されているとみなして、データを採用することになります。勿論、採用するデータはどんなデータでも良いわけでなく、物価指数の場合は日本銀行が組織的に決まった方法で集計した信頼のできるデータだから採用出来るのです。

残念ながら、こうしたデータの精度の限界はどうしても存在します。したがって、絶対的な真実ではなく相対的な真実レベルに留まらざるを得ないというのが現状であります。 実際のところ、今回のように物価のデータが大きく振れてしまうことはそれほど多くはありません。例外的と言っていいほどでしょう。 ロシアによるウクライナ侵攻も未だ着地点が見えません。もしかすると新たな感染症の発生・パンデミックの可能性もあるかもしれません。 再び豹変する物価指数に出遭わないことを祈るのみですが、そうであってもしっかり対応出来るように備えたいと思います。

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