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  • 執筆者の写真Frontier Valuation

製造業の国内回帰の流れは進むか

サプライチェーンの崩壊

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)はこれまでの世の中の流れを変えると様々に言われている。当初は2~3ヶ月でV字回復すると言われていたものの専門家の知見が発表され、SARS-Cov2というウイルスが長期にわたって居残る可能性が高くなってくると、「アフターコロナ」から「ウイズコロナ」に世の論調もがらっと変わってしまった。 COVID-19による最も大きな影響のひとつに、感染拡大防止のための移動制限、さらには移動制限が物流にも影響を及ぼし、生産活動においてサプライチェーンの崩壊が起こっていることが挙げられるのではないか。 特にクロスボーダー(国際)取引は深刻で、現実に受注がなくなり操業が落ちるだろうと思っていた工場がフル稼働しているとのことで理由を聞いたところ、海外に下請けに出していた仕事が受けてもらえなくなり、自社での生産に切り替えているのがその理由だという話もあった。

安全保障上の観点

特にCOVID-19ではマスクや医療用のガウンの深刻な不足が問題になった。聞くところによれば、SARS-Cov2の存在を知った中国政府が世界にその情報が知れ渡る前に、こうした製品の輸出に規制をかけていたという。金融取引で言えばインサイダー取引に当たるような不公正なやり方であるが、中国政府に西洋の倫理観を求めることは不可能であり、そもそもが倫理観が違う国と思って付き合わなければならない。 従って、こうした国に医療体制の維持に必要な製品の生産を預けることは安全保障上の観点からかなり多くのリスクがあると言わざるを得ない。例え日本企業の現地生産であっても規制を受けるとこは同じであるから、やはり日本国内で製造すべきという方向に否が応でも進むであろう。

グローバリズムの変化

2010年代までのグローバリズムの動きも確実に変わってくるだろう。アメリカのトランプ政権が誕生して以来、アメリカの国際協調の姿勢が大きく変化し、露骨な自国第一主義に走るようになった。

もともと自国第一主義の中国が世界経済で台頭するようになっていたところにアメリカまで同じような方向に走り出すようになってしまった。また、韓国なども感情優先でまともな対話ができない政治体制になってしまっている。米中対立の構図が鮮明になっているが、中国は別の理由でイギリスを旧宗主国とする国々とも関係を悪化させていた。さらにCOVID-19の対応を巡ってドイツとも関係を悪化させている。関係を悪化させるとすぐ経済制裁を持ち出すのが中国政府の悪い癖である。世界各国と諍いが起これば中国経済も減速することは間違いない。そうなると、経済の面でも今までと異なる流れが起こるのは間違いないだろう。 また、IATA(国際航空運送協会)はCOVID-19で減退した国際線の航空需要が2019年のレベルまで回復するのは5年かかると予測している。予測であり確実にこうなるというわけではないが、感染症対策のコストアップで航空運賃の値上がりも避けられなくなることは確実で、そうなれば低コストキャリア(LCC)のビジネスモデルは立ちゆかなくなるから、人の流れも変わることだろう。 いずれにしてもクロスボーダーのハードルは高くなりそうだ。

生産回帰につながるか

こうした世界情勢から日本国内での工業生産回帰に繋がるという期待は高まっている。特に地方にはバブル期に開発して塩漬けになっている工業用地は多数ある。青息吐息だった観光業がインバウンドの増加で好況どころか過熱気味になったことを考えると同じように需要急増...というような話すら聞く。  

とはいえ、そううまくいくかは微妙なところだ。 日本の市場人口減少がこれから本番を迎えるから著しい減少を起こす。 また、昨年末まで人手不足と言われていたが、その原因は労働者がいないことではなく、まともに賃金を払える求人がないため採用できなかっただけという指摘も多い。 このため、工場労働の多くの部分は外国人の技能実習生によって支えられているのが実態で、問題の多いこの制度を更に拡大させられるかは疑問である。 また、環境規制なども日本は中国や東南アジアの国々と比較すると厳しいレベルにあり、コスト競争という面で不利になるが、だからといって規制緩和というわけにもいかない。 消費者がコストアップを甘受すれば良いが、上記の実態をみれば少々無理があると言わざるを得ない。 製造業の国内回帰の流れを大きくするためにはその前段として社会経済の構造改革がいろいろと必要になってきそうだ。

 

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