農水大臣の「減価償却」発言から...
- 6月4日
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ご承知の通りコメの価格が上がり、小売店の店頭に商品が見当たらないという状況が続いていますが、先月農林水産大臣の発言が物議を醸したことが発端となって、新農林水産大臣に小泉進次郎氏が就任されました。 就任早々、備蓄米をその迄の入札に代わり、随意契約で放出する方針転換を行い、マスメディアなどで大きく注目されました。 その中で小泉農相がNHKのニュースウオッチ9で、「減価償却」という用語を使ったことが、話題になっています。
「減価償却」とは長期間にわたって使用される固定資産の取得(設備投資)に要した支出を、その資産が使用できる期間にわたって費用配分する手続きである(Wikipediaから引用)。
確かに「減価償却」は固定資産に適用するものですから、流動資産である米に「減価償却」というのは誤りと言っていいでしょう。 ただ、言いたいことはわかりました。というのも、今回放出された備蓄米は”古古古米”と呼ばれる、令和3~4年度産のコメで、比較的長期保存されたコメですから、それなりに品質低下はあり、その分価格も安くなるということで、品質低下に基づく価値の低下のことを言いたいのだなと分かりました。 不勉強と批判が出てはいますが、用語の使い間違いは私だってやってたりしますから、そこで足を引っ張ったりということは、やめておくことにします。 とはいえ、「減価償却」という用語でイラッとすることはたまにあります。 公正価値評価のうち、コストアプローチで「使用年数/耐用年数アプローチ」という手法

があります。対象となる機械設備の実使用年数を使用実態に合わせて見積もり、その機械設備の耐用年数と比較して、どの程度の物理的減価が発生しているかを求めるものです。 計算のやり方は減価償却の場合とよく似ているのですが、減価償却は取得原価を基準としてそこに手を加えないのが原則ですが、時価評価の場合は求めるものは時価ですので、新規の再調達コストが基準、つまり同種同類のものの現在の価格が基準になります。また、耐用年数も減価償却の場合、税法の基準で定められた耐用年数を用いますが、時価評価の場合は、使用実態に即して評価人が適切と判断される耐用年数を見積って決定します。使用年数にしても、同様に時価評価の場合は実態に即して評価人が判断します。
機械設備の評価の場合は、日本国内で不動産鑑定を行う場合のように、法令等で定められた厳格な基準がないため、どのような定義の元に評価を行ったのか、評価書上に記載するのが一般的ですから、コストアプローチについてもどのような評価をやったのかもちろん記載してあり、それを読めばコストアプローチは減価償却とは似て非なるものということが分かるようになっています。 以前、監査法人のレビューで「減価償却について」という質問がありました。もちろんコストアプローチのことを言いたいのだというのは分かってはいたのですが、評価書上ではコストアプローチとは記載したものの減価償却とは一言も記載してはおらず、聞き手の会計士も普段の「慣れ」でつい書いてしまったのでしょう。ただ、質問状では複数の質問にわたって幾度も「減価償却」と書かれており、評価書を表面的に見ただけで思い込みで質問してきているように思えてさすがにイラッとしました。 結局、それらの質問に対しては「本評価においては『減価償却』は一切行っておりません。評価書に書かれていないことに関してはお答えできません」との回答を付けて返信しました。 「いけず」「意地悪」なのか「専門家として当然」なのか、意見は分かれるかもしれませんが、そもそもの意義定義が違うものをごちゃまぜにして議論することは、どこかで合意したとしてもお互い「わかっているようで何もわかっちゃいない」という結論にもなりかねません。ですから、こうするしかないのかなというのが私の意見です。 自分の専門外の分野に足を突っ込まなければいけないことは往々にしてあるのですが、「俺は何でも知っている」というプライド、「いつものことだ」という慣れを捨てて接しないとなかなか本質的に理解するのは難しいのだなとつくづく思います。
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