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  • 執筆者の写真Frontier Valuation

航空燃料が不足している背景

更新日:7月12日

 日本国内の地方空港で航空機燃料の調達が困難になり、海外のエアラインが就航を断念する事態が起きているという。

地方空港だけの問題か?

 国土交通省と経済産業省資源エネルギー庁と合同で、官民の関係者が一丸となって緊急対策を検討する「航空燃料供給不足への対応に向けた官民タスクフォース」が設置され、6月18日に初会合が行われたが、報道によれば「背景として、製油所から空港近くまで燃料を運ぶ船が不足していることが地方空港での燃料不足につながっているとみられる」旨の説明があったということである。

 これはいわゆる「2024年問題」のひとつで船舶の不足が原因とみているようであるが、これとは異なる見解も存在する。


 近年、地球温暖化対策として温室効果ガスの排出削減が求められ、温室効果ガスのひとつである二酸化炭素(CO2)の排出を伴う化石燃料の使用削減が叫ばれている。

航空機燃料(ジェット燃料)にはケロシンと呼ばれる燃料が使われる。ケロシンなどというと難しく感じるが、何のことはない、誰でも知っている「灯油」である。このケロシンは原油を精製して作られる。原油を精製して石油製品をつくる工場が「製油所」である。製油所では蒸留装置や分解装置を使って、加熱された原油を蒸留することによってさまざまな種類の石油製品がつくられる。

 具体的にはLPガス、ガソリン・ナフサ、灯油・ケロシン、軽油、重油やアスファルトであるが、蒸留装置の中ではこれら物質の沸点の違いを利用して分離、生成されてゆく。例えばLPガスは常温で気体であるし、ガソリンも常温で蒸発しやすい。ガソリンスタンドで給油していると、カゲロウのようなものがモヤモヤしているが、あれは気化したガソリンである。灯油は少し沸点が高く、ファンヒーターやストーブで点火しても燃え上がるまでに少し時間がかかるのはこのためである。航空機にケロシンが使われるのも常温で気化しにくいためガソリンに比べ扱いやすく、安全性が高いためだという。


 このように原油を精製するといくつかの石油製品ができるのであるが、逆に言えば、いっぺんにいろいろなものができてしまうので需給バランスの調節が難しいと言える。


 石油製品の中で最もポピュラーなものと言えばガソリンであるが、技術進歩によりガソリンエンジンの効率が上がり、さらには電気モーターでアシストするハイブリッド車や、環境志向の高まりでそもそもガソリンを必要としない電気自動車にシフトが進んでいるため、ガソリンの需要量は特にOECD加盟国では頭打ちの状態となっている。

 そうなればガソリンの減産を余儀なくされ、それに伴い副生成物である灯油や軽油の生産量も減少してしまう。乗用車ではガソリンエンジンから電動にシフトしつつあるが、航空機や特に長距離を走るトラックやバスの電動化はそれほど進んでいないためミスマッチが起こってしまうのである。

 日本も例外ではなく、過去10年間に原油処理能力が20%削減されている。原油処理能力の削減は製油施設の廃棄や製油所そのものの閉鎖によって行われるが、施設が減れば輸送距離は長くなり、現象として輸送効率の低下→船舶の不足ということになる。船舶の不足が地方空港の燃料不足の一因であることは間違いないが、増える航空需要に対し減少する精製能力という背景が根本にあり、船舶の問題がクリアしても別の形で供給難になることはないだろうか。


SAFと航空業界

 地球温暖化対策として航空業界で導入を目指しているのがSustainable Aviation Fuel(持続可能な航空燃料:SAF)である。SAFは自然由来の循環型原料で、身近なものでは食用油などを精製して作られる。外食産業で出される揚げ油の廃油などが用いられるが、現在でも需要は旺盛であるという。

 環境問題を考えるとSAFの使用が望ましいが問題はコストである。SAFは従来の燃料供給インフラが活用できるものの、問題はコストである。航空機の省エネ技術は日進月歩で進化を遂げているがそれでも大量の燃油が必要になる。従って大量かつ低コストで入手できる燃料は必要不可欠であるが、SAFは石油由来のケロシンに比べればどうしても採取や加工に手数がかかってしまい、現状では石油由来の燃料の数倍~十数倍程度になるという。例えば、ニューヨークから成田までの飛行に必要な燃料はボーイング777で約25万ポンド(約11万3400kg)、787型機の場合は15万ポンド(約6万8000kg)とのことである。ケロシンの場合1.25L/㎏であるから、ボーイング787でニューヨークから成田までフライトすると85,000Lが消費されることになる。2024年5月のシンガポールケロシン基準値は$103.05/1バレルとされていて、1バレル=158.987Lであるから、必要な燃料は534.63バレル。燃料代は55,094USD、161円/ドルとすると日本円で約887万円、ケロシンの単価は104.35円/Lということになる。SAFはこの数倍~十数倍となると猛烈なコストアップになる。

 こちらも技術進化を待つしかないのかもしれないが、脱炭素、脱石油の進歩はガソリンエンジンほどには進展しておらず、ガソリンの需要減とSAFのコストダウンどちらが先になるかのようにも思える。さらに自動車が電気自動車になったように航空機の電動化の研究も進んでいるが、現在のケロシンを燃料として飛ぶ航空機からは構造的な面から作り直す必要があり、莫大な時間と費用が掛かるのは間違いない。現状では燃料のうち10%にSAFを入れているといい、これが現実解のようだ。


 世界的な構造変化にさらされているため、航空機燃料の不足は日本の地方空港の問題、あるいは燃料輸送の改善だけでクリアできる問題ではなく、今後の世界経済にも影響を与える可能性もある。航空チケットの価格は今まで下がり続けてきたが、今後は値上がりに天日かもしれないし、貴重な燃料を有効に利用するため、これまで以上に狭い空間に大量の人を載せなければならなくなるかもしれない。

 

出典・参考 石油の精製 (一財)日本エネルギー経済研究所 石油情報センター

※文章の一部が繰り返し表記されるなど不具合が生じていたため、修正しました(2024.7.11)。


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