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  • 執筆者の写真Frontier Valuation

通常清算価値は公正価値の一部か?

あるところで、減損損失の判定における評価について「通常清算価値は公正市場価値のひとつである」というような解説がなされているのを見た。 米国鑑定士協会(American Society of Appreisers)の基礎教育のテキスト内(和訳版:日本資産評価士協会訳)では、公正市場価値を次のように定義している。 Fair market value/公正市場価値 

 自発的な買い手と自発的な売り手が、いずれも売買を強制されることなく、また双方があらゆる関連事実を十分に知った上で、双方に公正に取引を行う場合に、資産に対し合理的に期待され得る、特定日現在における金銭的に表示された予想額である。

また、清算価値の主なものとして「任意清算価値」「強制清算価値」の2つがある。

Orderly liquidation value/通常清算価値  売り手が現状有姿での売却を余儀なくされる場合に、買い手を見つける合理的な期間があるという前提で、清算売却により一般に実現され得る、特定日現在における金銭的に表示された予想総額である。

Forced liquidation value/強制清算価値  売り手が緊急に現状有姿での売却を余儀なくされる場合に、適切に公告され実施された競売によって一般に実現され得る、特定日現在における金銭的に表示された予想総額である。 公正市場価値は、①自発的な売り手と買い手、②売買を強制されない、③双方があらゆる関連事実を熟知していること、が前提となっている。双方があらゆる関連事実を熟知するためには情報の非対称性が存在しないことや、最適な売り手、買い手を探すため、または情報を収集するために十分な時間を与えられていることが前提となる。 一方、清算価値は通常清算、強制清算のいずれも「売り手が売買を余儀なくされている」ことを前提としており、少なくとも売り手は自発的ではなく、売却を強制されていることが前提である。また、特に強制清算の場合は即時の売却が求められるから、買い手に情報が十分に行きわたる余地がなく、買い手からすればハイリスクな取引となる。買い手としては使えないものや、使うにしてもコストがかかるものを掴まされる可能性があるからどうしても提示できる価格は低位となる。通常清算価値は買い手を探すために合理的な期間は与えられるが最終的には売却が強制されるため、公正市場価値よりは低位での売却となると考えられている。 通常清算価値は買い手を探すために合理的な期間が与えられることから、公正価値と実質的には同じと考えられがちであるが、売買の強制があるという点で決定的に異なる。 こうした原理原則を踏まえれば、「通常清算価値は公正市場価値のひとつである」という説明は残念ながら疑問を差し挟まざるを得ない。

機械設備ではないが、不動産で住宅ローンの返済に行き詰ったときに「任意売却」という選択肢があるが、現実の取引で「通常清算価値」に最も近いのが「任意売却」と考えられる。

実際に任意売却物件は通常の売却物件に比べればやや低めの価格が提示されることが多い。

現場で任意売却物件の不動産取引にかかわっている方のお話によれば、決められた期間で確実に買い手を見つけなければならないというプレッシャーがあること、ローンの返済に困窮している人が売主で、売却代金は返済に充てられるため、欠陥があった場合の契約不適合責任の追及が事実上困難であり、買い手にリスクを負担してもらわざるを得ず、その分低めの価格を設定せざるを得ないのが現実であるという(修理費相当分が安値であれば買い手としてはまだ合理的な取引になるからである)。 機械設備の評価において、それぞれの価値がどのような目線になるだろうか。 「PPAの評価 無形資産・動産の基礎から実務まで」中央経済社刊 山本智貴・金子竜平著156頁の図表によれば、 「切り売り前提の公正市場価値」(本サイトでは「Fair market value—removal/公正市場価値-撤去」としている)は同業他社などもしくは転用できる他業界の会社による相対取引、中古設備ディーラーの再販売価格(Resale price)相当。 「通常処分価値」(本サイトでは「Orderly liquidation value/通常清算価値」としている)は、中古設備ディーラーの下取り価格(Trade-in price)相当。 「強制処分価値」(本サイトでは「Forced liquidation value/強制清算価値」としている)は、中古設備ディーラーへの最速売却による下取り価格やオークションによる売却処分の水準。 とそれぞれ説明されている(図表の一部抜粋。引用の場合は書籍でご確認ください)。 公正市場価値と通常清算価値は買い手を探すために合理的な期間という観点が同一で、ASAのPOVを修了している人でも良く理解できていないことも多く、実際に筆者も当初はどのような違いかが分からなかった。 ザックリと言えば、公正市場価値はエンドユーザーとの間で成立する価値で、清算価値は中古ディーラーの仕入れの場面で成立する価値と言えるだろう。中古ディーラーは商材である中古機械を仕入れて、機械を自社の倉庫で保管、管理しつつ、顧客を探さなければならない。その分のコストはエンドユーザーに対して販売する価格をベースに控除され、自社の利益も確保した残余が下取り価格として中古機械の売り手に提示することになる。言うなれば「取引レベル」が違うことになるから、混同することは意外に大きな問題である。 とはいえ、実際のところ中古機械を処分する会社が自ら処分を行うことは稀で、機械を処分するとなれば中古ディーラーを使うことの方が多いのだろう。こうした現状から、リアルな価値を追求するならば処分価値を知りたいケースは清算価値の方がニーズに合った情報なのかもしれない。また、直感的には”売却≒換金≒清算”というイメージが働くから「回収可能額」を求めるとなると清算価値に直行してしまうのも一般的な感覚としてわからなくもない。 但し、ASAも米国では減損損失の評価では安易に清算価値を求めないように指導がなされているというし、日本でも不動産鑑定では清算価値に相当する特定価格を求めるケースは不動産鑑定評価基準等で定められていて、減損損失の判定は特定価格を求める場合に該当しないとされているため、公正市場価値に相当する正常価格を求めることが原則であるという。 今のところ日本の機械設備評価の世界はニッチな世界ではあるが、原理原則を踏み外しすぎると規制を受けて雁字搦めになりかねない。何となく胸騒ぎがするのは気のせいだろうか。

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