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取引レベルと公正価値

最終更新: 11月5日

公正価値評価の世界では「公正価値」(Fair market value)を次のように定義している。

Fair market value/公正市場価値 
 自発的な買い手と自発的な売り手が、いずれも売買を強制されることなく、また双方があらゆる関連事実を十分に知った上で、双方に公正に取引を行う場合に、資産に対し合理的に期待され得る、特定日現在における金銭的に表示された予想額である。 

誰からも強制されることなく、売りたい・買いたいという意志を持った市場参加者が、取引の対象物について熟知した状況でどちらにも偏ることなく成立する合理的な価値である。  よく考えてみると、この定義では、「自発的な買い手」「自発的な売り手」のいる市場がどのような市場かということが明確には定義づけられていない。  ここはひとつのポイントである。  全世界に共通するのか、あるひとつの国の中でのことなのか、ある地域で成立するものか、それとも地域的なものではなく社会的属性によって違うのだろうか。  だいぶ以前の話であるが、動産担保融資(ABL)に金融関係者の間で期待が高まっていた頃、日本資産評価士協会(JaSIA)でも、米国鑑定士協会(ASA)から在庫資産の評価の第一人者を招聘して何度かセミナーが開催された。ASAでは在庫資産の評価についてのカリキュラムを設定しており、このコースはME206と呼ばれている。  ASAの機械設備評価人の資格を得るためにはME201~204のコースを履修し、全て試験に合格することが条件のひとつになるが、ME206は資格認定のコースではなく、オプションの専門教育のような扱いである。  このME206の授業の中で、講師から「取引レベルを区別しなければならない」と教えられた。「取引レベル」とは聞き慣れない言葉である。どういうことかというと、原材料は原材料取引の市場、製品は製品の市場があり、製品の市場でも卸の市場と小売の市場があり、各々マーケットが異なるから、同じ製品であってもそこで取引される価格も異なり、評価に当たっては取引レベルごとに区別して考える必要があるということである。  もう少し具体的に言うとメーカーから問屋に売り渡される時の価格と、問屋から小売業者に売り渡される価格、さらに小売業者から消費者に売り渡される価格は異なるため、各々の「取引レベル」があるというわけである。  

東京・神田の問屋街

 現在では、小売業者の力が大きくなったり、ネット通販でメーカーから消費者にダイレクトで販売されるケースも増えてきたものの、依然として流通の世界ではメーカーと消費者の間に何層かのマーケットが存在していることは確かである。  したがって、公正価値とはいえども、どのマーケットで成立する公正価値であるかを評価を行うに当たってはしっかりと据えておく必要があり、取引レベルを意識すると共に、評価結果として出てくる価値が一体どのレベルのものであるのか、前提条件として明らかにしておく必要がある。

 動産の世界だけではなく不動産の世界でも「取引レベル」は存在すると考えられる。  ネットなどでも、「不動産を買取ります!」といった広告を目にすることがあるが、説明書きの中に「仲介で買主を探す場合より買取額が安くなります」と書かれていることが多い。これが取引レベルの違いそのものである。 (とにかく客付けしたいがために「どこよりも高く買います」と書いている広告も目にするが、再流通を前提としている場合は、仲介で買主を探す場合より買取額が安くなるという説明の方が適切になると思われる)  不動産鑑定士の話によれば、日本の不動産鑑定評価基準でも「取引レベル」について明確には記載されていないとのことだが、更地の評価における開発法では「取引レベル」の考え方が前提となっているという。

 機械設備の評価の世界に話を戻すと、売却を前提とした場合の評価においては、誰に売却するかを前提条件としてシナリオに入れておくことが必要になる。不動産の場合と同様にエンドユーザーに売却するのと、中古業者に売却する場合では「取引レベル」の観点から価値の性質が異なってくる可能性があるためであり、それによって集める資料や適用するアプローチに違いが出ると考えられるからである。


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