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  • 執筆者の写真Frontier Valuation

今度は電線が足りない

更新日:2023年12月20日

X(旧Twitter)を閲覧していたところ、「電線が足りない」というポストを複数発見した。 元になっているのは、12月5日に一般社団法人日本電線工業会が発表した通知「一部電線ケーブルに係る会員各社の新規受注停止等のお知らせ及びご協力のお願いについて」である。 この通知によれば2022年1月に6KV CVケーブルなど一部のケーブルが品薄で、納期遅延が発生したとのことであるが、2023年11月ごろから再び納期遅延に陥り、各社が受注を停止する状態に至ったとのことである。 需給がタイトである原因として再生可能エネルギーの導入拡大によって太陽光や風力発電の建設が相次ぎ、元から需要が拡大していたところに、台湾の半導体大手TSMCが熊本で新工場の建設に着手したこと、大阪関西万博による需要増が重なり、供給を上回る需要が発生して納期の遅延が発生するに至ったとみられている。 また、直接関係があるかどうかは不明であるが、世界中で再生可能エネルギーの導入拡大や車の電動化の動きが活発化しており、電線の素材である銅が不足気味であるとも言われている。 東京オリンピックや東日本大震災からの復興需要が重なったときには建築用の高力ボルトが品薄になったが、今回は電線で品不足が起こっているようだ。 ちなみに現在、高力ボルトの需給に関して特に情報はない。熊本の半導体工場にしても、万博にしても建築ラッシュであれば高力ボルトも再び需給ひっ迫になりそうではあるが、そうした情報はないのである。 高力ボルトの際は、建築に多大な影響が及んだことから国土交通省が調整に乗り出し、実際には需要と供給にアンバランスはなかったが、発注者側の発注のやり方に問題があったことが突き止められた。というのは、品薄になると需要者は早く、確実に入手するために、一つの需要に対し複数の注文を出す傾向が強くなり、結果、見かけの注文総数が激増し、注文に比べ供給数が少ないという状況に陥ってしまったことが分かったのである。そうして、本当の需要量を把握したところ、需給のアンバランスはなかったということがわかり、その後、市場は落ち着いたのである。

電線が品薄状態(イメージ)

今回の電線の不足も同じような現象なのかはわからないが、少なくとも実需がどの程度かはしっかり把握する必要があるだろう。過剰な発注が原因であれば解消に向かうだろうし、そうでなければ本当に需要に供給が追い付いていない可能性もある。 日本電線工業会が発表した通知でも需要が少なくなる時期には余裕が出てくる旨の記載もあるため、一過性の需給案バランスで終わるかもしれない。 最近は太陽光発電施設で電線の盗難が相次いでいて、保険会社も電線の盗難を保険の補償対象から外す動きに出ている。事業リスクにもなることであり、深刻な問題である。

しかし、これだけ様々なデータがやり取りされているデジタル社会であるのに、マーケットを俯瞰することが困難であることには毎度考えさせられる。 商取引の秘匿性は確保すべきかも知れないが、社会全体で有限である資源を使うのだから、社会的、公共・公益的な影響も少なからず孕むものである。 この辺りはまさに「持続可能な開発」に絡むことであるが、こうした世界では不思議と”SDG’S”という用語を聞かない。かと言って誰かに分配の役割を与えると共産主義の方向に走ってしまいかねない。 資源配分に関していっそう難しい舵取りが必要になるように思うが、解決策を見つけるのは簡単ではないようだ。 特にスクラップ価値にもどのような影響がでてくるのか。評価実務の観点からも勿論注視すべき状況である。

 

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