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Hideyasu Matsuura

「転造と切削の違い」と聞いて

NHKの連続テレビ小説「舞い上がれ」は以前もこのコラムで取り上げましたが、昨日(1月16日)の放送を夜NHKプラスで見ていたところ、興味深いシーンがありました。 東大阪で町工場を営む家に生まれた主人公がパイロットを目指し、航空学校(恐らく航空大学校がモデルなのだろう)を卒業したものの、折しもリーマンショックによる不況に見舞われ、内定していた航空会社への入社が延期となり、更に工場を経営する父親が急逝してしまい、母親と一緒に工場の再建に乗り出すというストーリーで、主人公も航空会社への内定を辞退(つまりパイロットになるという夢を捨てて)し、ネジ工場の営業職に転身するところまで話が進みました。 ドラマでは、ものづくりの全くの素人である主人公がものづくりの世界に飛び込んだものの、商品であるネジや工場が保有している機械に対する知識が全くなく、営業先でけんもほろろに追い返されてしまい、一念発起して勉強を始める中で、ベテランの職人に「転造と切削に違いは何か?」と質問するところで、16日の回は終わりました。 「転造と切削に違いは何か?」という台詞を聞いてふと思い出したことがあります。 実は、私が初めて機械設備の評価をした時、恥ずかしながら実査で工場の責任者の方にこの質問をしていたのです。 私が一番最初に手がけた案件はボルトの製造設備の評価でした。ボルトとネジというと似ているような別物のような感じがしますが、ボルトはネジの一種でネジの中でも一般にナットと一体になって使われるものをボルト言いますので、基本的にはネジと作り方は同じです。 対象となった設備は転造のための設備でした。「転造」は金属の棒にダイスと呼ばれる型を強い力で押し当てることによりネジのスクリューのギザギザな部分を造形するやり方です。 素人が考えると、ネジのギザギザは削って作ると思いがちです。もちろんそういう作り方もあり、それを「切削」といいます。 転造と切削それぞれに長所と短所がありますが、実査の時に工場の方が挙げられてた理由は、「切削にすると金属の分子構造を断ち切ってしまうので強度が出ない」ことでした。 切削は堅い刃物で削り取る形になりますが、転造の場合、金属を押しつぶしますので、構造は維持したまま形を変えてギザギザに成型されます。後で調べて分かったのですが、切削と転造では20%以上の強度差が出るのだそうです。 その他にも切削は一つ一つ削り出すため時間がかかり、コストも嵩む反面、精度が高い製品を作ることができる利点があります。 一方、転造の場合は切削に比べ強度が出るほかに、型を押し当てる製法なので、規格品を大量生産するのには適していますが、型を作るコストがかかるため、少量の生産の場合は1本当りのコストが高くついてしまいます。 また、特に強度の必要なネジの場合は、焼き入れ、焼き戻しといった作業をこの後やることになるので、熱処理が出来る施設があるかどうかで作れる製品が変わってきます。 その辺りは1月17日の回で放送される(この時間ですと本放送は終わっていると思いますが)のではないかとと思います。

実は、ネジを作る体験はやったことがあります。 静岡市の科学館に子供と行ったところ、地元のネジメーカーがオリジナルネジの製作体験をやっていて、そこで作りました。 この時の作り方ももちろん「転造」で、手回しの機械でネジを刻みました。子供のチカラでは難しく私がやりましたが、しっかりネジ山がつくのにはやりがいを感じました。 ネジは皮膜を付ける加工をした後、レーザーで好きな文字を刻んで完成。数年前の話ですが、今でも小瓶に入れて部屋の片隅に飾ってあります。 「転造と切削に違いは何か?」という質問をした私でも一応は機械設備評価をまだやっていますので、ドラマの方も工場が上向いていく展開になってくれればと思います。 評価の方は、いろいろな機械設備のご依頼を受けますので、一つのものだけを進行することは中々難しく、わからない機械が対象となった時にはイチから質問しなくてはなりません。また、ユーザー以上に機械を知っていることはあり得ないので、変に知った顔をするよりちゃんと質問をした方が賢明です。駆け出しの頃、経験者からそう教えられましたが、本当にその通りだと思います。 YS-11の際にも書きましたが、「舞いあがれ」は細かいところまできっちり作り込んであるドラマで、あらためて感心しているところです。

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