世界の製造業のうち、主要約2,300社の3月末の在庫は2021年末も比べて約970億ドル(約12兆円)増の1兆8,696億ドルとなったという。原材料を積み増したり供給網の混乱で製品を出荷できなかったりしたことが原因であるという。
そもそも在庫というのは何であろうか。
在庫とは企業・商店などが加工や販売するために保有する原材料・仕掛品・製品あるいは商品などの財貨を指す(wikipedia)。
とかく小売店の倉庫に積まれている、売ろうと思えばすぐに売れる完成品のみを在庫だと思いがちであるが、そればかりではなくいわゆる半製品、仕掛品やその前段階の原材料までが在庫である。
いいかえれば、企業が資金を投じてそれを回収するまでの間の、資金が物に形を変えた状態であり、投資のポジションの一つでもある。
日本に機械設備評価を採り入れようという気運が高まった頃、機械設備の評価人の必要性が叫ばれた理由の一つに、在庫資産などの動産を担保に融資する動産担保融資(Asset Based Lending:ABL)の普及が挙げられていた。不動産担保偏重からの脱却を金融庁や経産省が狙っていたのであるが融資の最前線にいる金融機関は及び腰で、残念ながら全くと言っていいほど広まらなかった。
拡大する需要に応えるべく、かなりに費用をはたいて講習に参加したりしたが、残念ながら一度も実戦の役に立つことはなかった。
ただ、在庫評価の理論は固定資産である機械設備の評価とも共通する部分はあり、決して丸損だったとまでは言えない。
話が脱線してしまったが、ABLを目的とした在庫評価においては換金価値が特に重視される。したがって、資金が物に形を変えた状態であれば、その状態を前提に価値を把握することになるが、半製品や仕掛品といったものが投下された資金と同等の価値を持つかと言えばほとんど「No」であると言って良い。
比較的高い交換価値を得られるのは、即販売可能な状態にあるような完成品や未加工の原材料である。半製品や仕掛品はまだ加工が必要な状態のものであり、ほとんど価値が認められないことも多いのである。例えば小麦を練ったパン生地があったとしても、オーブンで焼かなければ食べることは出来ない。最近は冷凍のパン生地もスーパーで売られたりしているから全く換金出来ない訳ではないものの、販路とその流通に耐えうる加工技術を持っていなければ「そんな物あっても困る」となるのが普通であろう。 他の工業製品にしても作りかけのものを手に入れても完成品として売るためにはコストがかかったり、パテントなどの問題も生ずることがあるから価値はどうしても低くなってしまうのが通常である。
部品不足で組み立てられないまま滞留している半製品や仕掛品があるとしたら、頭の痛い問題だ。不足している部品がなければ換金価値は乏しいと考えられ、資金回収ができないから資金繰りは厳しくなる。
製造業では物流を工夫してジャストインタイムで備品を調達し、在庫回転率を向上させることにより競争力を高める手法がとられるが、これと全く逆回転してしまっているというのが現状であり、この状態が続くと景気悪化が避けられなくなる。 また、原材料の入手難を見越して多めに原材料を確保していたメーカーが景気悪化でそれらの材料を放出するようなことになれば原材料市場の価格も急落するようなことになるかもしれない。 インフレや原材料不足に気を取られているあまり、他で目詰まりを起こして膨れあがっていることに気付かず、ある日突然破裂する...。 そんな絵を想像してしまうのであるが、そうならないことを祈るのみである。
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