American Society of Appraisers(米国鑑定士協会:ASA)の評価メソッドの中に、在庫資産評価のコースME206がある。 金融機関が在庫資産を担保に取るための評価の方法について学ぶコースである。
詳しい方法については割愛するが、目指すところは主としてNet Orderly Liquidation Value(純通常清算価値)を把握することである。 清算価値には通常清算価値(Orderly Liquidation Value:OLV)と強制清算価値(Forced Liquidation Value:FLV)がある。
公正価値と清算価値の違いは、売買の強制の有無である。 公正価値の場合、売主または買主が自発的な意思で取引に参加するということが条件になる。 一方、清算価値の場合、売主(清算の場合、通常買主は考えられない)に売却が強制される。売却して現金化して債務の弁済に充てる必要があるからである。
では通常清算価値と強制清算価値の違いは何かと言えば、処分のために猶予される期間の違いである。
物の取引を行う場合、売手は商品を陳列し価格を表示する。今ならネット上に掲載するという行動に出るだろう。
買手としては、数ある売手の動向を四六時中観察しているわけでもないから、当然タイムラグが出る。 また、買手としても購入資金を調達する必要があったり、商品についてあれこれ吟味する時間も必要だ。 したがって、買手に情報が浸透し、買手が現れ取引が成立するまでには相当な時間がかかるということにもなる。
この期間を一般的に「市場滞留期間」という。
では、処分をするための相当な期間である「市場滞留期間」が具体的にどの程度の時間になるかといえば、それは、取引の対象となるもい場合には売買が成立するまでの時間は長くなり、物が長い期間市場に滞留することになる。
言い換えると、一般的な市場滞留期間より短い期間で強制的に売ることを強いられるなら、価格は安くしなければならない。
その時の取引で成立すると考えられる金額が強制清算価値になる。
更に言い換えると、たくさん回収したければ、処分期間を市場滞留期間で設定すれば良い。 しかし、その期間を徒に長くすればいいというわけではない。店舗で売ろうとすれば店舗のコスト、通信販売でも倉庫のコスト、人件費、広告宣伝費その他諸々が必要になる。 回収価額を多くしたければ、回収価額を最大化しと回収のためのコストを最小化すれば良い。その場合に成立するのがNet Orderly Liquidation Value(純通常清算価値)である。
金融機関の担当者と動産担保融資(ABL)の話になると、決まって「ABLは回収できない」という。
そして"ABLは使えない"という烙印を押されてしまった。 しかし、本当にNet Orderly Liquidation Value(純通常清算価値)が実現できるスキームを組んで処理したのであろうか。面倒くさいからといってどこかに丸投げしてしまったのではなかろうか。
商売人としては安く仕入れられれば言うことはない。足元を見て二束三文で買い叩くことができるのが優秀な商人である。面倒だと丸投げすれば二束三文になるのは当然である。
必要なのは処分スキームの中で的確にプランニングが行える水先案内人である。評価人は直接取引に介入ができないものの、スキーム作成やマネジメントでは力を発揮することができるだろう。
我々としても、問題は分かっていて行動ができないのが非常にもどかしいところであるが、何とかパートナーを見つけて問題解決に尽力したいところである。
※この記事は2017年3月3日に有限責任事業組合日本動産評価フロンティアのコラムで発表したものを再掲しています。
Comentarios