■朝日新聞の記事が固定資産税の評価に触れる 朝日新聞が固定資産税の不動産鑑定評価について連載記事を掲載している。 追う 土地の税金 評価額「会議」で決まる:朝日新聞デジタル https://www.asahi.com/articles/CMTW1912041100002.html 記事では、固定資産税の鑑定評価のプロセスが予め会議で見込価格を決めておいて、これに併せて鑑定評価書を準備する手順であることを紹介している。 日本の不動産鑑定評価基準においては 第1章第4節で不動産鑑定士の責務について規定されているが、 この中には評価の結論を決めておいてから評価作業を始めることについては特に禁じるような記載がなく、他についても同じである。 したがって、全く問題のないやり方であると言える。 ■米国鑑定士協会の倫理規定では「あるまじき行為」に該当する可能性
米国鑑定士協会(ASA)の倫理規定でも、依頼者から価値(不動産鑑定の「価格」とほぼ同じ意味)についての指定を受けて業務を受託してな貼らないという規定はない。 ただ、セクション7の「反倫理的及び専門家としてあるまじき行為」の中に「成功報酬式手数料」という項目があり、この中で『依頼者によって指定された成果や結論に対する彼の到達度合いに比例するという契約を受け入れるとしたら、評価士の仕事の結論を使用することを考える誰もが、「これらの結論はバイアスがかかっており、利益誘導的で、無効である」と疑念を抱くであろう。」』と記載されており、依頼者の指定された成果や結論通り(あるいはそれに近い結果)に評価書を書くことで報酬を貰うことは一般的に評価人にバイアスがかかっており利益誘導的と見られるため反倫理的とされている。 もっとも、契約書で結論を指定するような契約になってさえいなければ明確な指定はないのだから大丈夫とも考えられるかも知れない。 ■但し海外での運用はかなり厳しい
「契約書で結論を指定していなければ、依頼者と結論について合意してもいい」という論法は、残念ながら認められる可能性は低い。海外では、依頼者から報酬を受け取る前に依頼者に対して評価の結論を教えること自体があるまじき行為として扱われている。 なぜなら、結論を教えて依頼者が「その結論に対しては報酬を払えない」といったらどうなるか。裏を返せば"依頼者の望むとおりの結論になれば報酬を払う"ということになるから、成功報酬式の受託をしたことと同じになる。 なんとも回りくどいが、逆にそれだけ厳格に運用されているということである。 ちなみに、なお、セクション7には「一人の依頼者から同じ資産について、複数の評価士が独立の鑑定を依頼されたときに、全員で共同作業する、お互いに相談する、他人の結果や数字を利用する。」ことは反倫理的とされており、同じ評価対象に2人以上が独立して評価を行う場合は会議で結論を決めていたとしたら、反倫理的行為になるだろう。 ■制度設計の違いであるから直ちに当否を断ずることはできない
そもそも日本の不動産鑑定評価制度と米国鑑定士協会(ASA)の考える鑑定評価とはかなり異質なものである。 日本の不動産鑑定評価制度は国の土地政策の中のひとつであって、国家によって管理されているものである。 一方、ASAは、評価人の独立ということを強く指向していて、国家(特に政治や行政)もステークホルダーのひとつと考え、介入を嫌う。日本でいえば、弁護士会のような自主独立の組織であることを是としている。 こうした依って立つ制度設計の違いがあるから、日本の不動産鑑定評価において評価額が会議で決められるとしても、国の土地政策実現のためと考えれば直ちに誤りであるということはできない。 評価人としてどちらが妥当かなどとここで述べる気はない。ただ、日本の不動産鑑定のやり方の当否について海外の基準を持ち出して当否を論じるようなことはしたくないのと同時に、ASAからライセンスを貰っている人が、日本の不動産鑑定と同じイメージでASAで「あるまじき行為」とされているようなことを機械設備や無形資産評価に持ち込むことは御免被りたいをいうのが率直なところである。
米国鑑定士協会認定資産評価士(機械設備) 松浦 英泰
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