不動産の所有者は不動産の登記情報で知ることができるが、登記情報は必ずしも権利関係の実態を反映しているものではなく、所有者が判明しなかったり判明しても所有者に連絡がつかない土地、いわゆる「所有者不明土地」が、全国的に増加している。
近年の個人情報保護意識の高まりで一般の人が土地の所有者を探すことは極めて困難になっており、土地を利用してくてもどうすることもできないといった壁にぶち当たることが往々にしてある。 このため国土交通省が平成30年の通常国会に所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法案を国会に提出して可決成立し、 平成30年11月15日に一部施行、令和元年6月1日に全面施行された。 所有者不明土地の利用の円滑化法に基づく制度では 都道府県知事の裁定を受けることで、所有者不明土地を広場・防災空地・購買施設等の地域の福祉や利便の増進(地域福利増進事業)のために使うことができる。 地域福利増進事業は、所有者不明の土地であって、一定規模の建築物(物置、作業小屋など平屋で20㎡未満)がない未利用の土地で、都道府県知事の裁定を受けて最長で10年間の土地使用権を取得して行うことができる。関係者が同意すれば使用期間の延長も可能である。事業主体は民間企業、NPO、自治会、町内会などどれでも行うことができる。
裁定に当たっては補償金が定められ、その補償金を供託することにより使用権を主とすることができるが、補償金の額は通常の宅地に比べれば低額に抑えられる。
制度上使用権は最長10年とされているため、建物の建築は事実上困難(不可能とは言えないが建物の耐用年数より大幅に短いため経済的に見合わない)であり、プレハブなど仮設建築物しか儲けることができないほか、そもそも地域の福祉や利便の増進のための事業にしか使えないのであるから、収益性の高い事業を行うことはできない。 また、事業対象となる土地の選定も一般の人では容易ではないことから、行政の積極的な関与が必要だ。 こうしたことから、自治体の意欲に左右される可能性が高く、どこまで実効性があるかは未知数である。 私的所有権絶対の原則の例外を認めた点では画期的な制度であるが、例外であるがゆえの制約が多いことは仕方がないもの制度を利用しにくくしていることも否めないだろう。また、原則として建築物がない土地のみが対象になっているため空き家対策にはならない。所有者不明で固定資産税の滞納がある土地であれば、公売のスキームを活用した方が安定的で制約の少ない土地利用も可能になる。 ただ、公的サービスの促進のためには有効なスキームであり、住民の意識と自治体の対応力次第では"経世済民"の事業が可能になるのではなかろうか。
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