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  • 執筆者の写真Frontier Valuation

リスクコミュニケーションとコスト~豊洲移転問題から

東京都中央卸売市場の豊洲移転に関する問題で、土壌汚染対策として行われた盛土が一部で行われていない事実が発覚しました。

土壌汚染の発覚した豊洲の移転予定地で新市場を建設するためには最低でも食品の安全を確保することが求められます。さもなければ他に移転ということになるはずですが、東京都は予定どおり豊洲に移転することを選択しました。

食品の安全という面からは、最低限食品の安全に支障を来すことがないような汚染物質の対策を施せば、科学的な視点からは問題がないはずです。また法律上も汚染の封じ込めができれば汚染が残っていても構わないことになっています。現実として、汚染を除去するとしても除去した汚染物質をどこに持っていくか、どう処理するかという問題も発生するからです。一方で食品は人間の口に入り健康を大きく左右するものですから、安全であることだけに留まらず消費者の安心や信頼を得る必要もあります。

東京都は今までに850億円を支出し、この額の大きさが問題視されています。豊洲の移転候補地では環境基準の1,000倍のベンゼンが検出されました。ベンゼンは揮発性の物質であるため地表面をコンクリートなどで覆って揮発を押さえる措置をとれば問題は発生しないのですが、あえてコストのかかる汚染された土の入れ替え措置まで行いました。

民間企業であれば費用対収益の思考から、コストが膨大にかかるような手法は選択せず、他に土地を確保してプロジェクトを続行するか、あるいはプロジェクト自体を中止にすることとなりますが、行政の場合はサービスの必要性に応えることが重要になりますから、多少はコストがかかるとしても必要性があれば推進する必要があります。むしろ、民間企業にできないことだからあえて公的セクタがやることなのです。

評価理論的に考えると、民間企業が採算ベースで考えた際に投資できるコストが新規再調達コストであり、それを超えるコストが「超過資本コスト」ということになるのではないかと思われます。 「超過資本コスト=無駄」と考えがちですが、リスクコミュニケーションというものを考えると、科学的な安全にプラスして政策的に安心を確保するためにもコストがかかり、特に卸売市場等の嫌悪施設の場合、例えば迷惑料などに類するような政策的なコストも高くなってきます。

豊洲移転問題の今後は非常に難しい対応が迫られることは間違いないでしょう。 他に用地を確保して1から作り直すことは考えづらく、かといって現状を放置したまま築地残留というのも考えづらいため、現状で安全確認を行って安全と判断されればそのまま開場するか、建物を改修または再度建築し直すか、いずれかの対応になるのではないかと思われます。

特に安心安全というデリケートな部分について配慮が欠けていたことがこれだけ問題を深刻にしたと考えられますが、どのようにして問題を打開するのか、それに対してどの程度のコストが増大するのか。リスクコミュニケーションとコストの観点からも観察したいところです。



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