中国経済が堅調を来していることは、毎月掲載している工作機械の受注動向を見ても明らかである。中国経済はコロナ前からアメリカ・トランプ政権の対中強硬策によっておかしくなり始めたが、COVID19禍、さらにはポストコロナにおいても振るわない感がある。 米中がワシントンで経済作業部会、中国の過剰生産能力を巡り再び対立 https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-04-17/SC26YBT0G1KW00
中国の生産能力が過剰な原因としては、中国政府による産業政策によるところが大きいと言われている。実際、補助金によって巨大な工場を建設して巨大な生産力を手にしている。 生産量を増やして大量生産が可能になれば限界費用も低くなり、製品価格の安さが競争力になる。一方でいくら生産コストが安くなっても需要を供給が上回れば在庫が積みあがっていくだけであり、需給バランスが崩れて価格が下落する。また、中国国内の需要で捌ききれないのであれば、輸出に回ることになり、そうすると他国の製造業にとって国際価格の下落が大きくダメージになる。 経済政策失敗のツケを中国が払わされる分には致し方ないが、特に工業製品の流れはボーダーレスであり、中国だけの問題では済まなくなる。中国が世界各国に不況と失業を輸出するような事態もありうる話である。
機械設備のASA評価士と意見交換することがあるが、やはり中国の現地法人の撤退や減損に絡む評価案件は非常に多いという。弊会でも同様である。COVID-19禍では中国が鎖国政策をとっていたため、現地調査ができず、ポストコロナになったら旧福島第一原発の処理水問題でビザなど渡航が厳しかったり、香港に法人を持つ評価会社では香港の現地スタッフが退職して外国に移住するケースも多いとのことで、非常に多難であるのが中国案件である。 もともと、中国経済は苛烈な競争で成り立ってきた。海外からパクってきたものを急速に改良し、著しい安値かつ圧倒的なスケールで市場に投入してくるから、中国独り勝ちの状況になり、世界の工場と言われるまでになった。こうした改良はかつては日本企業のお家芸であったが、今の中国のスピード感に伍していけるのは韓国メーカーくらいで、巨大化して小回りが利かなくなった日本メーカーはとてもついていけなくなってしまった。 しかも、太陽電池大手のサンテックパワーの例のように、時として成長して力を付けたメーカーを政府が潰してしまうこともあるから、凄まじいダイナミックさだ。 マクロ経済学では、一部の例外を除いて政府の介入は好ましくないとする考え方があるが、中国はその正反対を行っている。政府の補助金政策も功罪両面あり、確かに産業の活性化には役に立つが、本来の市場経済の法則からは外れることになり、競争環境が歪められるなど、その弊害は大きい。 太陽電池や電気自動車の市場では中国メーカーが市場を席巻してしまっており、他国の産業を破壊したり、安価な太陽光パネルがあるのをいいことに、安易なメガソーラー発電所の建設が行われたり、使われなくなった(ひどい場合には売れ残った)電気自動車が不法に投棄されたりといった現象が現に起こっていて、持続可能な開発という観点からも好ましくない状況にあると言っていいだろう。
太陽光発電に否定的な意見の根拠としてウイグル人の強制労働がよく根拠に挙げられるが、最近の中国のパネル工場はほぼ無人化と言っていいほど自動化が徹底されているという。つまり、安価な労働力を使わなくても設備投資で可能になっているから、ウイグル人の強制労働があったとしてもそれは以前の話なのかもしれない。むしろ過剰な補助金による過大生産を問題にした方が実態に合っているのではなかろうか。 本来はこうした状況になれば不況という形で資金循環が滞り、設備投資が抑制され、供給が細ってやがて市況も回復してゆくのであるが、政府が経済の自動安定化機構をぶち壊して補助金を投入すれば、深刻な負のスパイラルに陥ってしまいかねない。 恐ろしいのは、経済の循環、安定化の作用をひたすら無視してアクセルを踏み続けた場合、どこかで歪が溜まりに溜まって大爆発することである。そうなれば日本も決して対岸の火事では済まなくなるだろう。 EU、中国製EVへの相殺関税賦課に近づく-補助金の証拠「確認」で https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-03-07/S9YH03T0AFB400
各国政府も関税の引き上げなどで防衛策に走ろうとしているが、貿易戦争化を恐れた産業界からの反対の声も根強く、実効性のある政策が打てるかは未知数である。 今すぐ、ということではなさそうだが、中長期的には何らかの形で大きな調整の力が働くことも十分考えられそうである。
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