top of page

突然、数字が出てくる評価書に物足りなさを感じる理由――「説得力」を高めるためのコミュニケーション文章術

執筆者の写真: Frontier Valuation
Frontier Valuation
16 時間前
読了時間: 3分

 ASA(米国鑑定士協会)の機械設備評価POV(評価原論)の講習を受けて15年、Accredited Member(認定資産評価士)になって12年が経ちました。年季を重ねてきたようにも思えますが、現場に出ればまだまだ分からないことだらけで、自分自身を「ひよっこ」だと感じる日々です。

 最初は先例のない中で、どのように評価書(レポート)を書くべきか七転八斗してきましたが、最近はありがたいことに、他の評価士のレポートをレビューする機会も多くなってきました。

そこで、どうしても気になってしまうポイントがあります。


 それは、「背景がよく見えないまま、突然数字が飛び出してくる」という現象です。

 もちろん、そこに至る前提条件や計算プロセスはあるはずです。しかし、読み手からすると「なぜこの係数なのか」「なぜこの指数なのか」がさっぱり見えてこない。一言で言えば、「説得力に乏しい文章」になってしまっているのです。


簡潔さと丁寧さのジレンマ

 とはいえ、これは「言うが易く、行うが難し」の典型です。本当に難しい。


 簡潔にまとめようと心がければ、ややもすれば必要な前提や背景まで削ぎ落としてしまい、説明不足になります。逆に、ブラックボックスを無くそうと丁寧に説明しようとすれば、今度はダラダラとした冗長な文章になり、何を言いたいのかが埋没してしまいます。

評価書とは、目の前にいない「読み手」という見えない相手へのコミュニケーションです。


 このジレンマを解消し、簡潔でわかりやすい文章を構築するために、私は3つの「構造化の仮説」を立てています。


仮説1:結論先行+因果の入れ子構造(ピラミッド原則)

 突然数字が出てくるレポートは、評価士の「思考の順序(調べた順)」で書かれがちです。しかし読み手が求めるのは「結論とその理由」です。「結論(数字・判定) ➔ なぜなら(背景・前提) ➔ 根拠(データ)」の順でカスケード(段階的)に配置することで、読み手の脳内メモリを無駄遣いさせない構造が作れます。


仮説2:前提条件の「モジュール(部品)化」

 背景説明を本論にダラダラと書き連ねるから冗長になります。前提条件やマクロ環境、評価アプローチの選択理由は、それぞれ「独立した箱」として文章を切り分けておきます。ファクトベースのことは事前に説明しておき、本論の計算プロセス等では「詳細は第○章を参照」とリンクさせるだけに留めれば、本論のノイズを極限まで減らしつつ、背景の透明性を担保できます。


仮説3:あえて「選ばなかった理由」を1行添える

 「なぜその数字(修正率など)になったのか」を説明する際、「Aを選んだ理由」を熱弁するよりも、「BやCのアプローチでは不適当だった理由」を1行添えるほうが、引き算のロジックとしてはるかに簡潔で強力な説得力を持ちます。


試行錯誤の連続で「書く技術」を極めコミュニケーション力を高める

 機械設備評価における数字とは、私たちが「言葉で命を吹き込んだ結果」でなければなりません。だからこそ、この「書く技術」には終わりがなく、試行錯誤の連続によって極めていく必要があります。

 私たちが技術を磨くためにできる最善の試行錯誤は、日々のレビュー経験を自らに逆写しすることです。他者のレポートを読んで「惜しい、背景がわからない」と感じた瞬間こそ、最大の学びの機会。「もし自分がこのレポートを直すなら、どの前提条件をどこに配置するか」を脳内で再構成し、それを自分の次回の執筆にフィードバックするのです。

 ファーストドラフト(初稿)では丁寧にすべてを書き尽くし、セカンドドラフトで「この1文を削っても、結論の数字にたどり着くロジックは崩れないか?」という引き算の視点で推敲を重ねる。この「足してからの引き算」の試行錯誤だけが、筋肉質な文章を作ってくれます。

 15年、12年という月日を経てもなお、この「見えない相手とのコミュニケーション」の難しさに悩み、探求を続けられること。その試行錯誤のプロセスそのものが、資産評価士としての誇りであり、醍醐味なのだと感じています。

 
 
 

コメント


© 2023 フロンティア資産評価研究会 - Wix.com で作成されたホームページです。

  • Black Facebook Icon
  • Black Twitter Icon
bottom of page