10月24日に船井電機が東京地裁から破産手続き開始の決定を受けたというニュースが流れた。 船井電機と言えば格安なビデオデッキで有名で、学生時代には「FUNAIのビデオデッキ買ったよ。安いけど大丈夫かな?」等という話をよく聞いたものである。かつては絶好調だった船井電機も液晶テレビが登場するとじり貧になっていくが、最近ではヤマダ電機と組んで独占供給契約を結び、起死回生を狙っていたというニュースは聞いていたが、突然の「破産」のニュースを聞いてやはり時代には抗えなかったのかくらいにしか思っていなかった。 ところが、ネットの情報にちらほら「これはおかしい」という話が出てき始めた。船井電機は2021年に出版社の秀和システムの子会社・秀和システムホールディングスに買収された後、みるみるうちに業績が悪化し、「何かがあったのではないか?」という疑いの声である。確かに調べてみると不可解なことがあるが、詳しい話はニュースサイトなどに出てきているので、そちらをお調べいただければ幸いである。 最近「吸血型M&A」と呼ばれるようなM&Aが出ているという。「吸血型M&A」とは結果的に企業の資産を吸い取り弱体化させるようなM&Aである。豊富なフリーキャッシュフローを持っている会社が買収を仕掛けられて経営権を奪われ、乗り込んできた新しい経営者が企業の血液でもある資産を食いつぶしてしまうような”乗っ取り”は以前からあったが、近年のM&Aブームによってそうした事例が増えているというのである。 前出の船井電機の話もこの「吸血型M&A」に該当するのかどうかは定かではないが、状況からして「吸血型M&A」の疑いが払しょくできないことは確かである。
こうした「吸血型M&A」が発生する原因として、M&Aスキームに不備があることやM&Aにおける企業価値の評価が適正でないことが指摘されている。特にM&A仲介業者を介して譲渡を行う場合は、M&Aの仲介業者が成功報酬を求めて、売手に対し早期の契約を迫ることが原因のひとつにあるとされている。
M&Aで企業を売却するなら資産の時価評価は必須
では、なぜ、早期の契約が問題であろうか。特に高齢の経営者の場合は事業承継にタイムリミットはある。そうした場合、早期の契約締結は三方よしのWinWinの関係になるとも考えられる。一方で、早期に契約を成立させるための特効薬は値下げである。すなわち安く譲渡すればよい。ただそれをやりすぎると別の問題も起こってくる。 安くしすぎた場合、企業の本来持っている価値(純資産)より割安で手に入れることができ、買収した企業を継続させず、資産を切り売りすれば、利益を上げられてしまうのである。 機械設備の評価の専門家の立場でみると、大抵は簿価は時価に比べて安価であり、簿価での評価算定を根拠にM&Aで企業を売却することはすることは、本来の価値より割安なバーゲン価格での取引になってしまうことが多いと考えている。 したがって、企業を売却する側に立つ場合は少なくとも不動産、機械設備については独立した第三者の鑑定評価によって時価を把握しておくことは必須であり、評価を実施することを強くお勧めしたいのである。M&Aと資産の時価評価は密接な関係にあり、利害関係のない第三者の評価で価値尺度をしっかりと把握することがバイアウト成功の鍵と言ってよいのである。 残念ながら、鑑定評価評価に対する社会的な認知度は低いことや、報酬に対する不安から評価の実施に二の足を踏まれるかとも多いようであるが、我々もお役に立てない評価であれば無理に行うことはお勧めしない。実際、評価に対するお問い合わせをいただいており、面談でご説明しているケースもあるので、お気軽にお問い合わせいただければ幸いである。
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