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執筆者の写真Frontier Valuation

盗まれた金の茶碗のおねだん

更新日:5月22日

 東京日本橋の高島屋で開催されていた「大黄金展」で展示されていた、重さ380グラム、販売価格1,040万6,000円(税込)の純金製の茶碗が4月11日に盗難に遭い、13日に窃盗容疑で30代の男が逮捕された。  後日のニュースで、盗まれた茶碗は11日のうちに江東区内の古物買取店に売却され、さらにその日のうちに台東区内の別の古物買取店に売却され、15日に警視庁の捜査関係者が台東区内の古物買取店で茶碗を発見し、特徴などから盗まれた茶碗であると断定したとのことである。  ご存じのとおり、金の価格はこのところ高騰していて、4月12日は12,931円/gが相場であったという。つまり、金の素材価格だけで考えると


12,931円/g×380g=4,913,780円


 ということになる。


 お断りしておくが、茶碗は動産であり、動産の評価をやっているから専門であると言いたいところであるが、専門分野は主に産業機械である。米国鑑定士協会(ASA)の評価専門領域にはPersonal Propertyという分野があり、美術品はそちらの専門である。ちなみにGems & Jewelry (GJ)と分野もあって、こちらは宝飾品が専門分野である。いずれにしても専門外の分野であるので、一般人に近い意見として軽くお読みいただければ幸いである。


 この茶碗は、前述のとおり日本橋の高島屋で盗難に遭い、江東区内の古物商に持ち込まれ、買い取られたがその価格は180万円であったという。古物商であれば、持ち込まれた品がどんなものであるかしっかりと見るはずだ。重さだけでもひとつの情報になるはずであろう。「純金だと思って買ってみたら金メッキだった」では古物商として食っていくこともままならないはずで、しっかりは見ているはずだ。

 だから、しっかりとその物が何かと見抜けていれば180万円という価格は「足元を見た数字」であることは間違いない。金の価値から考えても1/3の値段である。

 ただ、もしかするとその古物商は自分の眼に自信がなくて、転んでも損しない数字として180万円を出したのかもしれない。いきなり持ち込まれた訳な分からぬ品だから、物に疑いをかけてもおかしくないだろう。

 

 さて、報道によればこの茶碗はその日のうちに台東区内の古物商に四百数十万円で売却されたとのことである。「四百数十万円」であれば、金の価値に近い価格ということになる。 盗まれた茶碗は金工芸作家の作品であるというから、素材に加えて美術品の価値も考えられ、台東区内の古物商の商売としては”堅い”と言えるかもしれない。


 一方で、最初の江東区内の古物商については少々怪しいところがある。というのも購入した茶碗をその日のうちに転売しているのだから、茶碗の本当の価値を知って、180万円で買い、堅く見積もっても売れるであろう四百数十万円で転売したと考えていいだろう。  この盗難のニュースはかなり早い段階からマスコミ各社によって報じられている。もしかすると江東区内の古物商は事情を知っていた可能性も考えられるが、事実が何であるかはわからない。  茶碗を盗んだ容疑者も1,040万円の茶碗が消費税を抜いても180万円にならないことは当然知っているだろう。金に困っての犯行で、いくらでも売れればいいという考えだったに違いない。いうならば”投げ売り価格”が180万円だったと考えていいだろう(もちろん違法であるが。)


 別の視点で、元々百貨店でつけられていた1,040万円の値段が適正なのかという声もネット上で見かける。確かに原材料が500万円弱のものを約2倍の値段で売るのだから、そういう考え方もできるのかもしれない。とはいえ、1,040万円は金塊の値段ではなく、茶碗の値段である。純金(24金)は柔らかく変形しやすいので、造形はしやすいものの、取り扱いを慎重にしないと傷がついたり変形する可能性が高い。加工にはそれなりに気を使うだろうし、変形しやすいが故の難しさもあるかもしれない。また、流通コストもかかる。百貨店にしても展示会を開催するには輸送費、会場費等、様々なコストがかかるし、本来は盗難のリスクが高い高額品であればそれなりのコストを払って警備をつけるであろう。

 この点、筆者としては実際のところがどうなのかはわからないし、頼まれてもいない、見てもいないものの価値を論ずることはできないが、少なくとも価値を認める買い手が現れて、取引が成立しさえすればそれがマーケットプライスということになるだろう。この辺りがコストアプローチとマーケットアプローチの考え方の違いである。

 ちなみにこの茶碗であるが、ネット上での弁護士の解説によれば、被害者に返還されるという。当然のことながら被害者は業者に金銭を支払うことはない。  一方、古物商は支払った代金が丸損になるかと言えばそうでもなく、窃盗犯をして逮捕された人や、前主である古物商に対して代金の請求ができるという。窃盗犯、売主の古物商は売買契約に基づいて古物商から代金は受け取っているのに、売買の目的物である茶碗を被害者に返還してしまい、実質的に物を引き渡していない状態になるため、売主が買主に対し売買の目的物を引き渡す義務を果たしていないことになり、売買契約不履行で古物商は契約を解除でき、支払った代金も返還するよう、窃盗犯に対して請求できるからである。    とはいえ、本当に支払った代金を取り返せるかどうかはわからない。動産の所有関係を見抜くというのは、不動産と違って登記のような公信力のある公示手段がないので非常に難しい。しかしながら盗品の換金役として使われかねないため、古物商を営むには公安委員会の免許が必要で古物営業法に定められている。被害者保護という社会正義の観点に立てば盗品を見抜けなかった場合のリスクを負うことも古物商の宿命と考えるほかないだろう。最近は太陽光発電施設から電線を盗まれる事件が相次いでいるが、盗んだ電線を売って換金する事例もあるため、換金行為がこうした犯行を誘発していると考える人たちからは買取業者に対する規制強化を望む声も上がっている。

 物の価値が下がるデフレから、金融緩和政策とマテリアル不足を背景にしたインフレ社会に移行すると、物を売って換金するというビジネスが成り立ちやすくなる。であるから、携帯しやすく換金価値のあるものは盗難に遭うリスクが高くなるだろう。今までと違った警戒が必要になるかもしれないことを頭に入れておいた方がいいかもしれない。

 

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