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今そこにあるコモンズの悲劇

更新日:2023年11月9日

このところイーロン・マスク氏の買収で変化が大きいTwitter(現:X)であるが、手軽なソーシャルメディアとして他のサービスに代替しづらいところがあり、今なお影響は大きい。


タイムラインを見ていると、水産関係を専門とする大学教授の投稿が目に留まった。

日本の漁業資源の枯渇の危機と危機を回避するため漁獲制限を導入するなど漁業者や行政への意識改革をしきりに訴えておられた。


投稿には賛同や反対意見など様々な返信が集まっているが、返信の一つに「コモンズの悲劇」で検索してみるように勧めるものがあったので、早速検索してみた。


「コモンズの悲劇(Tragedy of the Commons)」は、ガーレット・ハーディン(Garrett Hardin)によって1968年に提唱された環境経済学の概念である。

この概念は、共有リソースを持つ社会において、個人の合理的な行動が集団全体に対して非合理的な結果をもたらす可能性があることを説明している。


コモンズは、誰もが自由にアクセスできる共有の資源、例えば漁場、牧草地、森林、水源などを指す。これらのリソースは誰もが利用できるため、個人や集団は自己利益を最大化しようとしする。コモンズの悲劇は、個々のアクターがリソースを過剰に利用しようとする傾向に起因する。なぜなら、個人がリソースを減少させる負の影響(例えば、漁業での過剰漁獲や森林の過度な伐採)は個人にとっては直接的には負担にならないが、リソースが共有されているため、その結果として共有リソース全体が損なわれることになる。コモンズの悲劇において、共有リソースは過度に利用され、最終的には過剰利用によって持続不能な状態に陥る。これは、リソースの枯渇、生態系の破壊、社会的な不均衡などの問題を引き起こす可能性がある。こうした「コモンズの悲劇」を防ぐためには、リソースの持続可能な管理と規制が必要である。具体的には、漁業制度、森林管理、水資源管理などの形で行われる。また、共有リソースのプライベート化や権利の割り当ても検討される。

コモンズの悲劇の概念は、持続可能なリソース管理や環境保護に関する政策立案や意思決定に影響を与える重要な概念であり、個人の合理的な行動が共有リソースに対して持続可能性を脅かす可能性があることを強調している。


ここまで書くと、コモンズの悲劇は近年クローズアップされているSDG(持続可能な開発目標、Sustainable Development Goals)と関係が深いとピンと来るはずだ。両者は持続可能な開発と環境保護に関連する重要な概念である。

コモンズの悲劇を回避し、共有資源を持続可能に利用することは、SDGの一部である「持続可能な開発」の目標として位置づけられている。また、共有資源を持続可能に利用するためには、資源の適切な分配が不可欠で、SDGは、社会的な包摂やジェンダー平等などの側面もカバーしており、資源の不均衡な分配に対処することも含まれている。さらに、コモンズの悲劇が環境悪化を引き起こす可能性があるため、SDGには環境保護と気候変動対策に関連する目標(SDG 13など)が含まれており、資源の持続可能な利用に貢献している。

つまり、コモンズの悲劇とSDGは、持続可能な開発と環境保護における重要な概念であり、共有資源の持続可能な管理と資源の適切な分配が、SDGの達成に向けた重要な要素となっている。コモンズの悲劇を回避し、共有資源を持続可能に利用することは、SDGの一部である「持続可能な開発」の目標として位置づけられており、例えば、SDG 14(海洋の保護と持続可能な利用)は、海洋資源の適切な管理と保護を強調している。


日本は高度成長を終えて成熟社会に入っているといわれており、作れば物が売れるといわれている時代はとうに終わり人口減少社会に入って、需要がシュリンクするフェイズに入っている。

そのような状況で生産・供給の拡大による成長を図ろうとすれば、過当競争に陥って市場価格が下落するか、他の市場を侵食して需要を確保しなければ達成はできないし、供給のためのリソースも枯渇してしまう。そこで、持続可能な経済を実現させるためにSDG’sという流れになっているのであるが、ネット世論を見ると欧州が自分たちの利益のために扇動しているなどといった言説が広く語られていて、現状認識の危うさを感じるところである。


水産業に話を戻すと、持続可能な漁業を推進し、消費者に持続可能な海産物を提供するための国際的な認証制度であるMSC(Marine Stewardship Council)認証というものが存在する。MSC認証を取得する漁業は、一定の持続可能性基準を満たし、漁獲が環境への影響を最小限に抑え、漁業資源が適切に管理されていることを証明する必要がある。

MSC認証は漁獲量の管理など、漁業者に制約を課すものであるが、世界中で広く認知され、多くの漁業が取得を目指している。MSCによれば、2021年9月までに、400以上の漁業者がMSC認証を取得しており、約15,000以上の製品がMSC認証を受けた漁業から生産されてるとのことであるが、日本ではわずか10件にとどまっているという。


日本の数少ないMSC認証取得漁業にカツオ漁があるが、関係者に依然伺ったところではカツオ漁を行う漁業者の持続可能性に対する認識は厳しくかつ同業者が認識を共有しているため、資源保護のインセンティブのほか、漁船の調達なども建造の技術を絶やさないために漁業者が造船業者にデメリットが生じないよう、定期的に建造することで調整しているという。

目先の収入を気にして資源が枯渇するまで獲り尽くすか、収入減を覚悟して抑制するか難しい決断を覚まられることになるが、収集可能なデータを見る限りは、もはや枯渇寸前の状態でそれでも収入を確保するために量を増やそうとしているようにも見て取れる。


漁業だけにとどまらず様々な業界で「資源の先食い」「資源の枯渇」が起こっているように見受けられる。昭和型の拡大総生産のセオリーは現在では通用しなくなっているのだが、それでも稼がなければならないから、客の車をゴルフボールで叩く自動車修理が出現したりする。社会全体のシステムが令和に対応するころにはもう次の時代になっているのかもしれない。

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