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執筆者の写真Frontier Valuation

評価は貨幣額で表示するだけで良いのか

 我々が扱う鑑定評価は不動産についても、機械設備にしても、最終的に求めるものは貨幣額で表示される価値である。要するにものとお金を天秤にかけて、どのくらい金銭を乗せれば両者が釣り合うかということである。(もちろん機械を物理的に動かして秤に乗せる訳ではなく概念的にである)。  現在の経済情勢はインフレ傾向である。COVID-19を受けて各国の中央銀行が潤沢な資金を用意し市場に流したため、その後始末に追われている最中である。  地球上にあるモノの数はさほど増えていないのに、貨幣だけを増やせば、貨幣の価値は相対的に下がる。よってたくさん貨幣を積まないとものが買えなくなる。これがインフレである。  要するに貨幣の価値は下がっているということであるが、これが極端になると貨幣としての信認がなくなると言うことであり、こうなると貨幣経済の前提条件が崩れてしまう。  そうならないために各国の中央銀行は金融の引き締めに乗り出しているが、日本銀行だけはおいそれと金融引き締めに動けないのがご存じの通りの現状である。  それては別に、近年、貨幣では解決出来ない価値が重視されるようになってきた。  例えば温室効果ガスの排出削減が年々重要度を増し、自動車も化石燃料を使うガソリン車から電気自動車(EV)へのシフトが進みつつある。  EVは静粛性が高く、トルクが太くてパワフルといった利点があるが、航続距離が短い、充電インフラが貧弱、車体の価格が高いなどデメリットも多く、使い勝手の面ではガソリン車が圧倒的に有利である。にもかかわらずガソリン車よりもEVが選好されるようになってきたのは貨幣より環境を重視する流れが出来てきている表れであり、利益追求のための外部不経済に対して世間が厳しい目を向け始めているということでもあるのだろう。  会計監査の世界では単に金銭的な取引の監査にとどまらず、不正や横領などの証拠を発見し、法廷で証拠として使用できるよう情報分析を行う「フォレンジック」と呼ばれる分野が注目を浴びており、それ以外にも企業活動の監査として環境分野での監査も大企業を中心に国際規格などで求められるようになっていて、鑑定評価も単に金銭的な価値を追い求めているだけでは限界があるのではないかと感じることが多くなっている。  数年前に知り合いの大学教授から「ASAといえばフォレンジックで名前を見ますよ」といわれて、恥ずかしながら「フォレンジック」というものを調べて見たことがあるくらいで、海外では評価の世界も単に金銭価値だけを追い求めるだけの世界からは抜け出しつつあるようである。  もっとも、既存の評価以外の分野に専門性がないのは如何ともしがたいのであるが、社会が変化しているのだから、それに追いつくように勉強していかなくてはならないだろう。  環境問題も今までは「大企業の問題」というイメージだったが、大企業が取引先にも環境対策を求めるようになり、さらに連鎖してその取引先にも..と、裾野が広がりつつある。 そんな流れに取り残される人が出ないように我々も力を発揮すべき時が近づいているように感じる今日この頃である。

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