三菱重工が国産初のジェット旅客機として開発を進めていた、「三菱スペースジェット(MSJ)」の開発中止が2月7日に発表された。 当初三菱リージョナルジェット(MRJ)として開発がスタートし、MSJに名前が変わった後の2020年10月に開発の中断が発表され、もはや復活の期待は薄いとみられていたが、予想通りの結末になってしまい残念なところである。 「YS-11の夢を再び」とばかりに官民挙げてのプロジェクトであったが、試作機までは作ったものの、商品になることはなく終わってしまった。YS-11の開発では型式証明取得に際し、幾多の試練を乗り越え、大規模な設計変更をやってまで、何とか商品として市場投入にこぎ着けたのだが、今回は型式証明の取得が叶わないまま終焉を迎えてしまった。 YS-11も完成機を市場に投入したもののセールスは芳しくなく、最終的にプロジェクトとしては破綻する形で終わってしまったので、ここでの撤退は賢明な選択であったのかもしれない。 各方面から様々な方がMSJについての考察が述べられているが、ライバル機との関係が大きいようだ。直接のライバルとなるのはブラジル・エンブラエルのE-Jet シリーズで、開発当初はギアード・ターボファン(GTF)と呼ばれる次世代のエンジンを搭載した当時のMRJの方が性能的に優位であったが、エンブラエルもMRJと同じGTFエンジンを搭載した新世代機E2シリーズを投入。エンジンは同格でありながら基本的な性能はE2シリーズの方が優れることから一気にMSJが劣勢となってしまった。 さらに、近年の環境意識の高まりで、今後ジェット燃料がケロシン(灯油)から植物由来のSAFの普及が進むと考えられるようになってきたこと、更に小型機を中心に電動化の波まで押し寄せつつあることを考えると、市場投入時に既に陳腐化した商品になってしまう可能性すら考えられるようになってしまった。 全くの外の人間であるから、敗因分析など出来ようもないことではあるが、プロジェクトに期待した側の考え方も古かったかもしれない。航空機の分野、特に大型旅客機については開発費の負担やリスクが大きい。かつて、あのロールスロイスが経営破綻したのは自動車の売れ行きが悪くなったからではなく、航空機エンジンの開発に失敗したからである。ゆえに、リスク分散で世界各国の企業が開発に関わっており、ボーイングの旅客機は多いもので日本製が3割を占め、中部空港には部品を運搬する専用のジャンボ機が行き来しているほどであり、エアバスも日本での調達比率を上げようとしている。MSJ自体も8割は外国製であったという。 そのような状況で「国家の威信」を過剰に期待するのはもはや時代錯誤なのかもしれない。エンブラエルもブラジル製ではあるが、実はドイツ人の技術者が深く関わっており半ばドイツ製といわれているくらいで、エアバスも欧州4カ国が母体である。 そんな実情を踏まえるとMSJの開発中止を「日本の凋落」などと捉えて過剰に落胆することはなく、むしろ一企業の一プロジェクトが中止になったと考えて、知見を後にどう活かすかを考えた方が良いのではないかと思う。航空機開発でいえば、自動車メーカーのホンダが小型ジェットで成功を収めており、日本企業でも攻め方を間違えなければ勝機は十分にあるのだ。燃料そしてエンジンを取り巻く環境が変わりつつある今は尚更である。 東京オリンピックにしろ、MSJにしろ、「高度成長再び」の夢が徒花になってしまった感がある。21世紀には21世紀なりの戦い方が必要で、遅まきながら考え直す必要はあるだろう。
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