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Hideyasu Matsuura

固定資産とは何か? ~基準によって異なる要件

更新日:2022年5月18日

 米国鑑定士協会(ASA)の機械設備分野の評価人の主な守備範囲は、産業用の機械や設備全般である。工作機械や印刷機、化学プラントなどのように固定設置されたものもあれば、建設機械や航空機、船舶など自力で移動可能なものもある。

 比較的大型のものというイメージになるが、そればかりではなく小さなものでも対象になる。また、インベントリー(在庫)評価についても実務では扱うことがあり、ME206という教育コースが設けられている。大雑把に言えば産業用の資産のうちでも動産に属するものの多くが対象となる。資産は固定資産と流動資産に分けられるが、実務上その区分が問題になることがある。


 どういうことかというと本来固定資産であるべきものが固定資産台帳に記載されていないという事態が起こりうるのである。何故か。


固定資産台帳が重要ではあるが

 ほとんどの案件で評価の叩き台になるのが固定資産台帳である。

 所有者から固定資産台帳の開示が受けられず、資産のピックアップから入る案件も経験したことがあるが、あるとないでは作業量がまるで変わってくる。そのくらい重要なものではあるが、過信しない方が良いものでもある。


固定資産台帳とはそもそも何か

 全ての企業は取引を網羅的に記録してそれを基に損益計算をする。何故それをするかと言えばいちばんの目的は納税の義務が課されているからである。数年前に全く帳簿の管理などしていなかった芸能人が脱税で摘発されたことがあるが、世間の反応は「もはや論外」と言わんばかりだった。

逆に言えば、帳簿を付けるのは当然の義務であり、それは納税のために必要不可欠な作業と言えるだろう。


 それ故に、帳簿は主に納税のためのルールに従って記帳される。企業の課税されるべき所得額を算出するための会計を税務会計といい、全ての企業は税務会計を行っているということになる。


 一方で会社制度の根幹をなすのが株式会社であり、営利企業の多くは株式会社である。出資者が株主となり、株主が経営に直接関与することもあるが、株式会社では経営の専門家に実際の経営を任せることが本流となっている。経営を任された経営者は株主に対して企業の経営成績と財政状態を誤解のないよう説明する義務があり、このための会計が企業会計である。


 税務会計は課税すべき所得の捕捉が主眼であるが、企業会計は配当の根拠となる所得の把握だけでなく自ら出資した資本が企業内でどのようなポジションにあるか、即ち現金なのか、営業活動に投下され、不動産や機械設備などの固定資産にあるのか、あるいは売掛金などの債権となっているのかを捕捉することも求められるのである。

 他方、税は広く企業や個人一般に課されるものであり、公平性、簡便性が特に重要になるが、企業会計は企業実体の把握が目的であるから、真実性がより求められるという性質の違いがある。


性質の違いからくる盲点

 こうした性質の違いから、固定資産の認識基準も異なる。税務会計では取得価額に一定の閾値を設け、それ以下の場合は固定資産として認識しないが、企業会計では正常営業循環基準を主に1年基準を副次的に適用してこれにあてはまらないものを固定資産に分類する。

 実務上は、税務会計を基準にした処理が行われ、企業会計はこれを流用する形が取られることがほとんどなので、税務会計では少額であるとして固定資産と認識されないものが、実際には企業の現場で複数年にわたって使用される(つまり簿外の固定資産が存在する)という現象が起こる。


どう対応すべきか

 この影響を受けるのは少額で取得した資産(主として10万円未満のもの)である。大量一括の資産評価の場合こうした少額のものは重要性が低いとして評価対象から外されることが通常である。ところが、これが営業用重要な資産であり、しかも大量にある場合。また営業用重要ではなくても大量にありそこそこの価値を持つものとなると、無視が出来ない存在になってしまう。使用頻度が低く長期にわたって低利用の場合は、簿価が1円であっても、使用価値相当が採れる場合もあり、そうなれば評価差益が以外に大きな額になることもある。


 こうしたものは実地調査で該当するようなものがないか評価人が注意して観察したり、ヒアリングを丁寧に行って存在を洗い出すしかない。また、そうしたものは必ずしも社内の一定の場所にあるとは限らず、外部に持ち出されていたりする可能性もある。評価目的にもよるが、固定資産台帳以外に信頼性の高い台帳等があればそうした情報も取り寄せたり、想定上の条件が許容されるのであれば数量を仮定したりといった処理、一方で不確かな情報しかない場合等は確認可能な範囲で評価対象とするか、重要性を再度ゼロから検討し直し、相対的に低いと言うことになれば評価対象から外すといった対応も必要になるだろう。 



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