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日本不動産鑑定士協会連合会の「研究報告」に対する異論

最終更新: 2019年8月29日



6月26日に一般社団法人日本資産評価士協会(JaSIA)の定時社員総会と会員集会が開催された。ここのところ機械設備評価の熱はすっかり冷めてしまったせいか、参加者は多いとは言えなかった。 集会の質疑応答の中で昨年、公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会(JAREA)が発表した「研究報告 不動産と一体として機能を果たしている動産等を含めた鑑定評価における基本的な考え方」に対する異論出されたのが興味深かった。   この「研究報告」であるが、米国鑑定士協会(ASA)の評価人が行う評価実務の内容と一部で相違する部分があり、会計監査系の業務に従事する会員から「ダブルスタンダード化」の懸念があるという疑義が提起された。

一例として引き合いにされたのはコストアプローチの物理的劣化の算定の部分である。 ASAの評価実務では実効年数(実際に使用したとみなされる期間)と残存年数の合計が対象資産の耐用年数と規定されており、評価人の見解は専ら実効年数に反映される。 ところが、不動産鑑定評価基準においては耐用年数による方法と観察減価と呼ばれる方法を併用して原価法における物理的減価が見積もられる。観察減価は評価人の主観によって調整が可能であるメリットがある反面、その根拠が分かりにくく恣意性が介入する恐れがある。 特に米国は訴訟社会であり、ASAの基礎教育では「法廷に立つつもりで評価をしろ」と教えられるように、エヴィデンスを重要視する。勿論、公正価値評価は厳密な科学として割り切れるものではないので、ファジーな部分がどうしても残るのであるが、極力説明のできないものは排除しようと考える傾向が強いと実務に従事していると実感する。日本の不動産鑑定評価制度に触れたことのないASAの資格者にとっては観察減価というものを突如持ち出されると、聞いたこともない用語であり直ちに理解はできないようで、観察減価とは何かと質問されたことが実際にある。   JAREAの研究報告については 「 研究報告 「研究報告」とは、上記規程第 3 条第 4 号の規定に基づき、本会が調査研究して作成した成果物のことをいい、不動産鑑定士にあっては不動産鑑定評価等業務を行うに際して、不動産鑑定業者にあっては不動産鑑定業を営むに際して、それぞれ参考になるものとして本会が公表するものをいう。 」 と定義されていることから、この研究報告を参考にした評価書が出てきた場合、特に提出された鑑定評価書の適否についての判断を行う監査の現場では機械設備の部分において、この研究報告とASAの評価実務のダブルスタンダードの問題に直面することになる。   日本の不動産鑑定評価制度は不動産の鑑定評価に関する法律によってオーソライズドされたものであり、いわば強制力を持つものである。勿論、機械設備の評価にはその強制力は及ばないが、上記の研究報告は民法の主物と従物の概念を持ち込んで、"土地に定着するものは不動産の一部"という見解を展開している。もちろん会計基準や一般的な会計慣行に照らせばこうした取扱はされておらず、やや無理があると言わざるを得ない。   昨年、ASAと、JaSIA,JAREAの三者は昨年9月に日本での機械設備評価の普及に向けて協力する三者間覚書の締結したとされており、こうした流れからもやや趣が異なる「研究報告」の内容に違和感を唱える意見が出た。 不動産の鑑定評価基準については日本の国家が制定した制度であり、50年以上にわたって成熟してきた制度であるから、然るべきところで議論が行われるべきであり、外野から干渉するべきものではない。しかしながら、機械設備評価もASAが100年以上にわたって育んできた歴史があり、ASAの評価実務は世界的なデファクトスタンダードといえる地位にあると言われる。 特に不動産鑑定士とASA資格を併有する方にはスッキリしない問題のようで、可能性は低いが機械設備についてASAのプラクティスで評価をすれば、この「研究報告」の内容を盾に責任追及をされる恐れもあるため、この「研究報告」を歓迎しない意見も聞かれる。   互いに長い歴史の中で培ってきた基準ではあるが、ぶつかり合って無用な混乱が生じること避けて欲しいというのが現場の願いである。

フロンティア資産評価研究会 一般社団法人日本資産評価士協会(JaSIA)社員(会員選出) 松浦 英泰

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