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執筆者の写真Frontier Valuation

半導体不足が深刻化 ~ サプライチェーンを俯瞰できるか?

ここのところ、世界的に半導体が不足していると言われている。 現在の工業製品の多くは半導体抜きにしては成り立たない。 その半導体が不足しているのだから事態は深刻である。

脆弱なサプライチェーン

半導体と言えばかつては日本のお家芸と言われていた。特に地方空港の周辺などは半導体工場が進出し、潤っていた。ところが為替の変動や経済のグローバル化によって日本企業の優位が失われてしまい、今や世界の半導体市場で大きなシェアを握るのは台湾のTSMCである。TSMCは受託製造企業であり、ファウンドリーと呼ばれる。 アメリカ・アップル社をはじめ世界中の企業が開発した半導体を受託生産している。特に汎用性の高い半導体はコスト競争力がモノを言う。コスト競争力の高いTSMCに生産が過度に集中し、それが世界のサプライチェーンにおけるリスクになっている。

なぜ世界中のメーカーが半導体不足に陥っているのか(ハーバード・ビジネス・レビュー)
https://www.dhbr.net/articles/-/7511 

激変する世界情勢

サプライチェーンが歪んでいるところに、アメリカ・トランプ政権が繰り出した米中貿易戦争、その後のCOVID-19の蔓延における経済の急激な停滞とその後の急回復といった経済情勢の激変が重なり、半導体の需給も大きく揺さぶられることになった。 米中貿易戦争や、COVID-19の蔓延で需要が急減していたところ、これらの要因が収束の方向に経済が急回復して、今度は世界の製造業から半導体需要が一気に高まり、需給逼迫状態にあるのが現在の状況である。

世界は危険なほど台湾に依存している-半導体不足でリスク露呈(Bloomberg)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-01-27/QNIYCMDWRGG401 

特に深刻な自動車業界

今回の半導体不足で特に深刻な影響を受けているのが自動車業界である。自動車向けの半導体は安全面に直結するものであるから、慎重な審査を経て世に送り出される物であり、代替が効きにくい。しかも、汎用性が乏しいため、必要とされる数量が汎用性のある半導体に比べて少なく、その差は2桁、3桁という大きなレベルであるという。 こうなると、数がモノを言う世界では必然的に後回しにされてしまう。 更に悪いことに、茨城県にあるルネサスエレクトロニクスの工場が火災で焼損し生産が不能になるという事態になってしまった。ルネサスエレクトロニクスは自動車用半導体のシェア3割を握っており、特に日本国内の自動車メーカーにとってはなくてはならない存在である。生産できなくなった半導体のうち3分の2はTSMCへの生産委託で凌げるが、3分の1は代替生産が効かないという。生産委託と言ってもTSMCは上記の通りだから深刻である。

ルネサス、工場火災で半導体不足に拍車の深刻 茨城・那珂工場で火災、1カ月以内の復旧目指す - 東洋経済オンライン 
https://toyokeizai.net/articles/-/418464 

最適化のはずが「チョークポイント」を生むサプライチェーン

経済は市場に任せていれば最適化されるとする考え方もあるが、現実はそれほど生やさしくはない。長期的には最適点に収斂されるかもしれないが、短期的な混乱というのはここ数年でもあちこちで目にしてきた。 需要が減退すれば当然に減産と言うことになるが、その後の回復過程が急激になると需給逼迫が起こる。特にコモディティ化、ファブレス化が進んだ分野ではサプライヤーが減少して、急激な変化には対応しづらくなる。生産を担う側としても安易に増産するとその後の需要減で生産設備を持て余すことになるから、おいそれとは設備増強はできないし、特に半導体の場合は高いレベルの空気清浄性が必要になることからも分かるように、高度な生産設備が要求される。したがって、今の需要増に対応しようとしても実際に生産が始まる頃には半導体がだぶついているかも知れない。 また、生産設備が集中している台湾は米中対立の中で非常にスリリングな位置にいる。 さらには、経済の急回復で輸送を担うコンテナが足りなかったり、COVID-19で旅客便を中心に航空便が減便されて積載スペースが減ったり、そんな折りに旅客機の中でも輸送力の高いボーイング777型機のエンジントラブルで運航が減ったりというアクシデントにも見舞われ、多重苦状態である。

電子回路のように複雑で繊細なサプライチェーン(イメージ)

日本では東日本大震災後に、少数の需要者と少数の供給者に対し、その中間が中ぶくれ状態になっていることが明らかになったり、高力ボルトの流通が滞った際に国土交通省が発注ルールを設けるなどして一定の緩和に効果があった事例などもあったが、特にグローバル経済下では物の流れを俯瞰的に見ることは難しいのではないかと考えられる。 ただ、トレーサビリティに関する技術が急速に進化している現在、情報技術によって最適化が可能かもしれない。 このところ様々な記事を読んではいるが、情報技術による需給の緩和に触れられているものはほとんど見ない。過剰投資による価格低迷や価格低下を招かないためにも、別の観点からのソリューションが出てこないか、期待を寄せている。

 

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