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  • 執筆者の写真Frontier Valuation

評価額を競わせる依頼法

驚きの評価依頼方法

驚きの評価依頼方法を知った。 不動産鑑定の話であるが、複数の評価会社に評価を仮発注し、最も高い鑑定評価額を提示した鑑定会社のみに鑑定依頼を本発注するという依頼方法だ。評価報酬を複数の会社に競わせるというような話は聞いたことがあるが、評価の結論を競わせるというような話は初めて聞いた。 確かにこういう依頼方法を取れば依頼者はもっとも高い鑑定評価額の評価書を手にすることができる。 ただ、米国鑑定士協会(ASA)のCode of ethicsに当てはめると、こうした評価を受託することは"評価士としてあるまじき行為"に抵触する可能性が高いものと考えられる。 米国鑑定士協会(ASA) 鑑定実務原則と倫理規程では7.反倫理的及び専門家としてあるまじき行為 として 7.1 成功報酬式手数料 を指摘している。

成功報酬式手数料は「●円以上の評価を出せれば成功報酬を支払う」といったような評価契約をいう。予め評価額を指定した評価を受託することが禁じられているが、具体的に金額を指定しなくてもレンジの指定があれば金額の指定があったものと同じである。 また、海外では公正価値の評価額が算定された後、その金額が気に入らないからといって依頼者が報酬を支払わないことも「成功報酬式手数料」とみなされるという。気に入らない評価額に報酬を支払わないと言うことは、裏返せば「思い通りの評価額になれば報酬を支払う」と言うことだから、すなわち「成功報酬式手数料」である。海外の評価会社は評価人団体の申し合わせ事項もあり、先に報酬を受領してから評価書を依頼者に提出する手順を取っている。  

鑑定評価は評価人の意見である

成功報酬式の鑑定評価依頼が厳に禁止されるのは、鑑定評価に対する信頼が損なわれることを防ぐためである。

「鑑定評価は評価人の意見である」というのが大前提であり、同じ評価対象でも評価人によって見解が異なることもある。そう考えると一番評価額の高い評価書を採用することはありえると思うが、それでも報酬に差がつくとなると、やはり「評価人は依頼者の意向に沿った評価書を書いている」という疑念を持たれてしまう。「鑑定評価は評価人の意見である」ということは、専門家としての矜持を捨てて報酬のために恣意的な判断をすることも可能である。評価は厳密な科学ではないから恣意的な判断をしたか否かを明確に検証することも難しい。であるからこそ評価依頼という基礎的な段階で疑われるような行為があってはならない。「李下に冠正さず」「瓜田に靴を直さず」である。

流行しないことを祈るのみ?

こうした依頼の方法が世の中に深く浸透するとゆゆしき問題である。「本当はやっちゃいけないんだけど」なんて良いながら高い評価額を追い求めて鉛筆なめなめなんてことはやりたくないものだ。 私がこういう評価を受けなければ良いのだが、日本国内でこうした依頼方法が流行してそれを受託する人が沢山出てくれば「日本人のやった評価は作られた数字の評価」という世界の評判になるかも知れない。 こうした依頼方法が流行しないことを祈るのみである。

 

米国鑑定士協会(ASA)認定資産評価士(機械・設備) 松浦 英泰

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