日本時間で4月1日未明にWebinar「COVID-19 Latest Developments and Collaborative Efforts」が開催された。 これは、米国の評価人団体5団体(MBREA ASFMRA ASA IAAO AI)共催のセミナーであった。 米国では日本よりCOVID-19への対応が後手に回った印象があるが、評価人団体が共催でのこようなセミナーを用意できるスピード感は掛け値なしで素晴らしいといえる。 ただ、内容的に評価作業で具体的にどうするかよりは、クライアントや評価会社の資金面その他の対策といった内容が主であり、現場で評価を任されている立場からはやや物足りなかった。 しかし、急速な感染拡大とそれに対応するめまぐるしい政府や経済社会の激変で、社会実態を捉えること自体が非常に困難になっている現状を考えれば致し方ないことである。 こうした中では評価の受託自体が果たして適切かどうかも迷うところである。 特に割引率やキャッシュフローなど将来予測主となるインカムアプローチの扱いは難しい。機械設備の場合、インカムアプローチの適用は難しいものの、市場動向を考えるとマイナス要素は多いが、それがどの程度になるのかの予測は難しい。 在庫資産の評価なら尚更であろう。 9年前に受けたPOV(評価原論)の研修では、講師がダグラスDC-10(旅客機)の耐空証明取消の事例を挙げ、「こうした場合は評価を行ってはならない」と教えられた。 今回は評価の対象となる物自体に問題が生じているわけではないので、DC-10の事例とは性質が異なるものの社会活動の停止によって利用に影響を受けるようなものの評価は慎重に行うか、評価自体を避けるべきなのかも知れない。 今朝の日本経済新聞に「店舗・工場の減損見送り 金融庁など新型コロナに対応」という記事が出ていたものの、日本公認会計士協会は「昨晩および今朝の日経新聞の一部報道について」というプレスリリースで公式に発表したものではないと表明している。 また、いちばん切実なのは実査の問題である。 国際評価基準(IVS)や米国鑑定業務統一基準(USPAP)では評価に当たって実査は必須としていない。USPAPは評価人の判断の自由度は高いが、その代わり評価の結論として出された公正価値(清算価値の場合もある)はどういう条件によって導き出されたのかを明確にする必要があり、評価書に添付が義務づけられている宣誓書において実査を実施した(又は実施していない)と明記する必要もある。 (注)日本の不動産鑑定においては不動産鑑定評価基準で実査が必須とされており、実査を行わなければ評価基準に則った鑑定評価と認められない。 行動制限が課されると当然ながら実査もできないと言うことになる。それでは仕事にならないと言うことで実査は必須でないことをセミナーではアピールしていた。 しかし、評価人の立場から言えば、書類だけで評価するのは非常に恐い。 一般に企業の資産台帳の精度は今ひとつであることが多く、メーカー名や販売者の名前が混在したり、同じ機械でも購入時期によって全く違う表現になっていたりと言うことは普通にあるし、機械設備の場合はいろいろなものが評価対象になるので、経験が無いものが対象になると想像すらつかないこともあるのが現実である。 ラフでも良いからとにかく形だけでも評価書があれば良いという場合は別として、説明責任が求められる評価では実査をしておきたいのが評価人の本音である。 COVID-19感染拡大の下で評価を巡る具体的な行動指針が示されない中、不確かな情報が流れることは残念であるが、こういう場合は評価人が原理原則に立ち返って考えることが必要であろう。
COVID-19をめぐる米国評価人団体の動き等
更新日:2020年4月13日
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