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  • Hideyasu Matsuura

情報処理後進国の危機~クラウドサービスの海外依存が招く国を揺るがす深刻な問題

更新日:2023年11月10日

 今年の初め、ファクトリーサイエンティスト養成講座を受講しました。IoTだとかクラウドって、なんとなく知っている世界かとは思っていたのですが、全く知らない世界であることに気づきました。

 

 クラウドと言えば、仕事で使うファイルとか写真を保存しておくところ位のイメージしかなかったのですが、それは我々の身近にあるサービスのひとつにしか過ぎません。

 クラウドサービスは大きく分けてIaaS、PaaS、SaaSの3つの形態があります。


 IaaS (Infrastructure as a Service) は、インフラのみが提供されるクラウドサービスです。サーバやストレージなどのインフラ領域に分類されます。データを処理するサーバーやデータを保管するストレージといった物理的なインフラを提供するサービスで、データを処理するためのソフトウエアはユーザーが開発する形態です。


 PaaS (Platform as a Service) は、プラットフォームまで提供されるクラウドサービスです。OSやミドルウェア、ネットワークなどのプラットフォーム領域に分類されます。PaaSはデータを処理するためのプラットフォーム(サービス)が用意されています。ユーザーはプラットフォームのサービスを使ってシステムを作ります。ファクトリーサイエンティスト養成講座ではPaaSのひとつであるMicrosoft Azure(アジュール)でシステムを組み上げることを学びました。センサーで取得したデータをクラウドに飛ばし、データを保管すると同時にデータをグラフ化するなど「見える化」が出来るシステムを構築しました。簡単なプログラミングやコードが使える必要がありますが、最近は極力コードを使わないローコード、あるいはコードを知らなくてもシステムやアプリケーションを作ることが出来るノーコードを謳うサービスもあります。


 SaaS (Software as a Service) は、ソフトウェアまですべて提供されるクラウドサービスで、ソフトウェア領域に分類されます。一般的によく使うGoogleのサービス、フォトやマップ、カレンダー、ドライブなどがこのサービスに当たります。こちらはコードなど全く使わなくても使うことは可能で、ちょっとした使い方の工夫でイロイロなことが出来ます。


 このクラウドの世界はアメリカ勢が多くのシェアを握っており、AmazonのAWS筆頭にMicrosoft Azureがこれを追う展開、また中国勢も台頭しつつあるのが現状です。一方で日本勢は規模が小さく成長も小さい状況です。

 米国のIT関連企業大手4社の頭文字を取った”GAFA”(Google,Amazon,Facebook,Apple)は広く知られていますが、今のクラウドの世界を踏まえればこれから先は恐らくAMGA(Amazon,Microsoft、Google、Alibaba)くらいになるのではないかと思われます。


 この辺りで興味深いのが、経済産業省が令和4年7月に作成した「次世代の情報処理基盤の構築に向けて」 という資料で、この状況が続けば2030年にはコンピュータサービス領域で8兆円の貿易赤字に拡大するという予測が出されています。2021年の原油の輸入額が6兆9,190億円ですので、予測通りに推移すれば非常に深刻な国富流出が起こる事になります。


 資料によれば、日本のソフトウエア産業はユーザーとベンダー(製造業でいうところのメーカー)の関係が相互依存の関係だったことがデジタル競争の敗因だとしています。

 どう言うことかといえば、デジタルに疎いユーザー企業がベンダーに対し自社仕様のシステムを構築するように委託し、ユーザーのコスト削減要請に応えてベンダーは「言われたとおりに作る」低リスクのサービスを安価で提供する人月商売に走ってしまい、技術力は向上せず、エンジニアの待遇も劣悪になるという「低位安定」のマーケットができあがってしまったことで、ユーザーもベンダーもLoss-Lossの関係になったのが低迷の原因との見方です。


 確かに、昨今のマイナンバーカードを巡る一連の混乱を見れば、日本のデジタルの置かれた状況は相当に危機的だと思うのですが、少しPaaSやMaaSを使った経験も重ねると、日本の自前主義、完璧主義も足を引っ張っている感がします。デジタルサービスの世界は進化が早く、PaaS,MaaSでも仕様の変更は日常茶飯事で昨日の夜あったボタンがなくなっていたとか、新機能が突然備わったといったことが頻繁に起こります。システムは完全なものでなく日々進化していくものであり、使いにくいと思う反面、キャッチアップしていくことが宿命でもあります。完璧にこだわって先に進めないのでは取り残されてしまうのが必定で、柔軟に対応出来ないと使いこなせません。また、ネットワーク社会で他とつながることが重要になっているのに、自前のシステムにこだわり排他的になればこれも取り残される元になりますから、「標準化」は考えなくてはなりません。

 マイナンバー騒動を見るにつけ、古い組織、古い考え方の人を束ねてデジタル化することは至難の業であり、それでもやらなければならないもどかしさを感じていました。これが全てとはいいませんが、世界の後塵を拝する状況でまだ前に行くか止まるか口論している様を見ていると、相当厳しいといわざるを得ません。今は少しでも改善されることを祈るのみです。

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